“マミ”と“ファ”の2人がダクトを伝って4S隊区画へ戻ろうとしている頃、4S隊本部では、2人の処遇をめぐって参謀本部と激論が繰り返されていました。 「いいですか、フジ監理官。彼女らは、防衛軍の極秘設計図を部屋に有しており、剰さえ、逃亡しているのですぞ!」 強面の“オカモト”参謀が、“フジ”監理官を睨み付けるように話します。 「オカモト参謀。ここは4S隊の区画です。ここでの事象は、すべて監理官が統括しています。その私に無断で、部下を拘束するとは、何事です!」 「なにを言われる!地球の安全に関わる事象に比べれば、さしたる事ではない」 「此方としては、参謀本部に厳重に抗議する所存です。お引取り下さい」 「彼女らは如何するつもりかな?」 「それも此方で対処する所存です。貴殿にお話する必要がありません」 苦虫を潰したような顔の“オカモト”参謀。 「防衛軍会議で、この件を報告させていただく。直ぐにも彼女らの捜索を再開するからな!」 叩きつけるように話すと、監理官室を出て行く“オカモト”参謀。 その姿が消えると同時に、“モリオ”隊長以下のメンバーが集まってきます。 「いったい何事です。彼女らがスパイ容疑などと・・・」 怒りながら、“フジ”監理官に質問する“モリオ”隊長。 「詳細はわかりません。ムロイ隊員がファ隊員のところへ出向いた時には、スパイ騒ぎで揉めていた所でした」 みんなの視線が“ムロイ”隊員に向けられます。 しかし、肩を竦めるだけで、首を振る“ムロイ”隊員でした。 「一刻も早く、彼女らを此方で確保してください。警務隊と参謀本部は此方でなんとかします」 “フジ”監理官の指示に急ぐ、4S隊の隊員たち。 「自室での携帯SG所持違反ですって?全く参謀本部ときたら!」 “フジ”監理官は、参謀本部へと足を運ぶのでした。 一方、ダクトを這い進んでいる2人は、垂直に伸びる排気塔にたどりつきます。 「ここを登るの?マミ」 「ええ。垂直に250m上がれば4S隊中枢部に到達できるわ」 「貴方達、地球人って本当に驚くわ。何処にそんな行動力があるのかしら?それとも貴方だけなのかしら?」 “ファ”の疑問に、笑顔で答える“マミ”でした。 “ファ”と“マミ“の拘束に失敗した“オカモト”参謀は、個室に入ると鍵をかけ怪しげな機械を取り出します。 「メセドメキア・・・光の王よ。我が失態お許し下さい」 「リュンジィよ。必ずロギュテルを抑えよ。かの者が居なければ、アルヴィスも共生体を失う」 「判っております。ついでに防衛軍をも・・・」 機械を閉じると、“リュンジィ”が憑依した“オカモト”参謀は、警務隊の総出動を命じるのです。 参謀本部へ警務隊の越権行為を抗議する為に出向いた“フジ”監理官は、あまりにも無理解な参謀本部に落胆を隠せませんでした。 「警務隊からの報告は聞いている。スパイ容疑だそうだね」 「2人は、逃亡中だそうじゃないか?それに地球への逃亡者もスパイだったそうじゃないか!」 「あの異星人と知り合いだったそうだね、君の部下のファ君は」 「だから異星人は信用できない」 あらゆる非難が4S隊に向けられるに至って、これ以上の抗弁は無理と判断したのでした。 そこに“アラシ”参謀が、“フジ”監理官に声をかけてきます。 「今回は、状況が悪すぎる。それに・・・」 「それに・・・なに?ダイスケ君」 「あんまりにも上手く話ができすぎていてな。ちと気に入らないのだよ。何か裏を感じる・・・勘だけどな」 「ダイスケ君には、参謀本部を御願いできるかしら」 「ああ、4S隊の動きを側面からできるだけサポートするさ」 4S隊本部に戻った“フジ”監理官に、“ムロイ”隊員から報告が入ります。 「先ほど気づいたのですが、例の異星人“リュンジィ”は警務隊で尋問中死亡したと、オカモト参謀が話していました」 「当然、死体は科学局に廻されると思うのですが、移動記録が見当たりません。おかしいと思いませんか?」 疑問について力説する“ムロイ”隊員。 「そうね、確かに変ね。そっちの線から調査を御願いできるかしら」 「了解しました」 通信を途絶した“フジ”監理官。その直後、本部の排吸気パネルがずれて、中から2人の姿が現れたのです。 「やっぱりね」 “フジ”監理官の言葉に驚きを隠せない2人。 「貴方達なら、垂直ダクトを昇って来ると思ったわ。普通の人なら諦めるでしょうけどね」 監理官に向って笑みを浮かべる2人。 「さて、どうなっているのかしら?貴方達にスパイ容疑がかかっているみたいだけど・・・」 「はい、監理官。私達も良くわかりません。ただ・・・」 「ただ・・・?なに?」 「警務隊を指揮していたオカモト参謀が、ファの事をロギュテルと呼んだのを聞いて、思ったんです」 「オカモト参謀は、操られている?又は乗っ取られているのかもしれないって・・・」 2人の話に耳を傾ける“フジ”監理官。 「ええ、その可能性は高いわ。ムロイ隊員の報告もそれを推測されるわね・・・」 「で、ファを罠にはめたと・・・」 勢い込んで言葉を継ごうとする“マミ”隊員に“フジ”監理官は人差し指を口に当て、止めさせるのです。 「まだ、確定ではないのよ。あんまり急いで結論を・・・」 言葉を続けようとした際に、本部ドアの外で多数の人間の気配に気づきます。 「4S隊の諸君、警務隊だ。そこに手配の2人がいるのはわかっている!無駄な抵抗はやめて出てきなさい」 警務隊の突然の襲来に驚く、3人。 「しまった!警務隊は、ここも監視していたようね。ファ、マミ、貴方達は仲間と合流して、今回の陰謀を暴きなさい」 「貴方達が捕まれば、敵の思い通りになってしまうわ」 「でも・・・監理官は?」 監理官を心配する2人に、“フジ”監理官は、言い放ちます。 「4S隊隊員ファ、マミの両名に命令します!仲間と合流して、無実を晴らしなさい!」 命令に、敬礼して反復する2人。 「ええ、ここは任せなさい。では幸運を!」 涙目で別れる2人に、視線をなげかける“フジ”監理官。 「私は、あなた方を信じている。無事に逃げて・・・・」 SJV格納庫への通路に2人が走り去ると、装甲シャッターを下ろす監理官。同時にドアが開放され、警務隊が乱入してきます。 「これは、ようこそオカモト参謀。御来訪には、少し取り巻きが多いようですが・・・」 「軽口を叩けるのも今のうちだ!2人はどこだ?」 「さあ?ここにはいませんが」 惚けたように答える監理官に参謀は怒りを隠せません。 「監理官を拘束しろ。容疑者幇助の罪だ!」 抵抗せず、監理官は警務隊に拘束されるのでした。 ついに4S隊の“フジ”監理官までもが拘束されてしまいました。 未だ“ファ”“マミ”両名の疑惑も晴らせないまま、4S隊の苦闘の時間は過ぎてゆくのでした。 【第14話/完】 |