日系の習慣には帰省というものがあり、科学万能の時代にもこの旧い慣習は生き続けていました。 そして彼女も、そんな呪縛から抜けきれない一人でした。 「ええ、マミ隊員、貴方には特別警備任務を命令します」 「しかし、その方面には、なにも異常、警戒警報は、でていませんが・・・・」 “マミ”隊員は、“フジ”監理官の真意を知り、辞退をしていたのですが、無理やり今回の任務を命じられたのでした。 「ええ、そこは貴方の故郷ですから、ぜひ警備任務を立派に果たしてらっしゃい」 “フジ”監理官は、“マミ”隊員に、実家への帰省を促していました。多忙を極める4S隊では、長期に休暇をとることは不可能だったからです。 それに隊員も休暇には否定的で、人事業務部を悩ませていました。 監理官は、任務の一環として警備任務を与える事で、帰省させる作戦にでたのでした。 「それと、マミ隊員。ファ隊員を連絡係りとして同行させます。良く地球を見せておいて下さいね」 地球上での生活の殆どを基地で過ごしている“ファ”に対する気遣いでした。 それを察した“マミ”隊員は、今回の任務を断る事もできず、警備に名を借りた帰省に出発したのでした。 あくまでも警備任務なので、“マミ”と“ファ”隊員は、4S隊のSSTにて郷里に向かっていました。 「マミ・・・郷里ってなに?郷里は地球ではないの?」 異星人で統合された国家にいた“ファ”は、郷里が二つある地球人を不思議に思っていました。 「そうね、今まで地球人は、この地球だけで過ごしてきたの。だからここが世界のすべてだったから、ここで生まれ育った場所を郷里としているの」 「ファ達は、銀河が住む世界で、リュディアが郷里だからね」 答える“マミ”に“ファ”は、頷きながら答えます。 「世界の違いなのね・・・」 特捜隊日本支部から数時間、山中にある村落に到着する二人。 ここは原生林があり、自然が残存する地域でした。小鳥の鳴き声、川のせせらぎ、優しい日差し等、“ファ”の故郷に似た所に、彼女も喜びます。 街道を走ると一軒の民家が見えました。中から地球人の子供が一人走り出してきます。 「ねえちゃ〜ん!お帰り〜〜」 彼は、“マミ”隊員の弟でした。車から降りる“ファ”を“マミ”と間違え飛びつく弟。 「え?えぇえぇ???」 驚く弟に、“マミ”は、“ファ”に恐縮しながら諭します。 「あんた、本当は知っていて間違えたんじゃないでしょうねぇ・・・・」 “マミ”隊員の言い草に苦笑する“ファ”隊員でした。 その後、“マミ”の家族に紹介され歓待される“ファ”隊員。その晩は、地球の郷土料理でもてなされるのでした。 “マミ”の現況から幼い時のエピソードまでを繰り返し聞かされる“ファ”に、苦笑を禁じえない“マミ”。 そんな中、“マミ”の父親から驚愕の事実が、伝えられます。 「やっぱ、偉いさんに直接電話するのが、近道じゃったのう、母さん」 「ほんま、ほんま」 喜んで受け答えする、自分の親の姿に訝しげな“マミ”隊員。「なんのこと?」 「ああ、お前が全然帰ってこんけ、戻してもらうように電話した。ほら何とかいう・・・あっ、そうそう、フジさんにな・・・」 思わず、噴出す二人。 「ちっ・・ちょっとお父さん、本当なのそれ・・・」 「ああ、気軽に受け答えしてくれたぞ、お前の上司。しかしなぁ・・・電話繋がるまでが、長いのう・・・お前の会社」 暢気に話す父親の顔を見ながら、あいた口のふさがらない“マミ”とそれを面白そうに見入る“ファ”でした。 深夜、“マミ”隊員の部屋で就寝につこうとする二人。 「まさか、直接連絡していたとは、驚いたわ」 「監理官が、私の郷里を警備任務に指定した訳は、そういう事だったみたい」 今回の突然の帰郷命令の裏側を、楽しそうに話す二人。 突然“ファ”が“マミ”に、なにか外が騒がしい事を伝えます。 「貴方のところも、基地周辺の町の人々と同じで、夜も騒がしいのね」 “ファ”の意見もそこそこに、窓の外を見る“マミ”隊員の目に、人々の異常な姿が映るのでした。 「様子がおかしいわ・・・!お母さん、お父さん、トモ!!」 家族を心配して、階下に降りる、“マミ”隊員。しかし、下はもぬけの殻でした。 外に飛び出し、人々を追う二人は、やがて“マミ”の両親と弟を見つけます。だが、呼びかけに反応が無く、彼女らを振りほどいて何処かへ歩き出そうとする両親たち。 異常な事態に何らかの事件の可能性を嗅ぎ取った二人は、4S隊に連絡をとろうとします。 両親をいさめる為“マミ”隊員を現場に残し、“ファ”隊員はSSTに戻り、連絡するのでした。 緊急を要する“ファ”隊員の連絡で、4S隊の勤務についている“リョウコ”隊員は、すぐに態勢を整え、出撃する事を約束してくれます。 連絡を終え、“マミ”隊員の元に戻った“ファ”隊員は、すでに“マミ”隊員までもその場所から消えていることに気づくのでした。 “ファ”が、連絡をとり、戻る直前、“マミ”隊員の意識が混濁していきます。 人々の意識を支配し、コントロールしていたのは、異星のナノウィルスロボットでした。 ナノウィルスロボットの正体は、リグラガン。 群体であるナノウィルスロボットの彼らは、遠い銀河で製作された奉仕メカでした。しかし、奉仕すべき異星人が滅んだ後、自己増殖を繰り返し、成長してきたのです。 銀河文明と交流を始めた地球には、交易宇宙船で運ばれてきます。地球の検閲では、メカの群体という認識がなく、警戒されないまま、単なる部品として流入したのでした。 其の後交易港から、部品として運搬中、スペースプレーンから脱出、“マミ”の郷里の山中に潜んだのです。 人々と接触した“マミ”隊員は、不覚にもナノウィルスロボットに感染してしまい、同じ様にメカ生体に操られてしまうのでした。 そんな“マミ”を感じ取ったアルヴィスは、“ファ”にテレパシーで連絡します。 ≪ファ・・・マミが、取り込まれた。体内の異星メカを駆逐したい、手を貸して欲しい≫ “ファ”隊員は快く了解すると、アルヴィスに変身して“マミ”隊員を助けようとするのでした。 アルヴィスは、極小体になり、“マミ”体内のリグラガンを探します。 リグラガンは脳細胞に寄生し、中枢神経に命令を発していたのです。 しかし、アルヴィスの前には敵でなく、一撃で粉砕されるリグラガン。と同時に、“マミ”隊員は、自我を取り戻すのでした。 “ファ”は変身を解き、“マミ”にリグラガンの事を伝えます。 アルヴィスは、リグラガンとの戦闘の中で、彼らの個体情報を得る事に成功していました。 群体の彼らを一体ずつ破壊するのは、アルヴィスでも無理でした。地球の医学では、手術的に取り出すことも不可能だったのです。 ならば、二人の出した結論は、群体の頭脳体を破壊することでした。頭脳体を失えば、群体は統制を失い、人々はその呪縛から逃れられるはずです。 ところが、その話し合いの途中で、今度は“ファ”の様子が、おかしくなってしまうのです。 なんと“ファ”隊員もリグラガンの呪縛に陥ってしまうのでした。 しかし、“マミ”隊員と異なり、意識を失うことも無く、“マミ”隊員に対して攻撃をしかけてきたのです。 “マミ”と敵対する“ファ”。なんと頭脳体が、“ファ”にとりついたのです。 “ファ”を操るリグラガン。“ファ”は、“マミ”より身体的にも凌駕している為に、圧倒的な力で“マミ”を追い詰めてゆきます。 やむなく“マミ”はアルヴィスに変身。“ファ”を気絶させると、極小化して体内に入り、頭脳体との戦いに向うのでした。 “ファ”の体内で、彼女の器官に損傷を与えないように戦わなければいけないアルヴィスは不利でした。頭脳体の攻撃と防御機能に苦戦を強いられます。 ところがその時、頭脳体を覆い包み攻撃する第三の物質が現われるのです。 なんと、頭脳体の支配が、アルヴィスの攻撃で弱まった為に、彼女の体の自己免疫システムが働き始めたのです。 地球人とは異なる“ファ”の抗体は、頭脳体をとり包み、押しつぶしていきます。 驚く“マミ”にアルヴィスが語りかけます。≪ここから出ないと、我々も奴と同じ運命だ・・・≫ “ファ”の体から脱出するアルヴィス。 意識の戻った“ファ”と両親たち。 頭脳体の破壊で、他の群体も活動をやめ、本来の自分を取り戻した人々がそこにいました。 4S隊と科学局の調査と健康診断で、以下の事実が判明します。 リグラガンは、蛋白質を基体とした生物メカであること。 活動を停止した群体は、地球人の体内で無害に分解されてしまう事です。 しかし、リグラガンが地球で人々を操り、なにをしようとしていたかは、謎のままでした。 リグラガンの脅威から、郷里の人々を救った“マミ”と“ファ”。 “ファ”を久しぶりに出迎え、からかう“ムロイ”隊員に“マミ”が耳打ちします。 「あんた、食べられちゃうぞ・・・」 怪訝な顔で“マミ”を見る“ムロイ”隊員と“ファ”なのでした。 【第24話/完】 |