第29話

牙獣 フルトン
登 場




数多の戦いに尽力してきた4S隊も、“タヌマ”副隊長の殉職、“ファ”、“ムロイ”隊員の負傷などが続き、戦力の低下が問題視されました。
地球防衛の要である4S隊の問題は、早急に解決する必要があったのです。
しかし、防衛軍のTOPチームである4S隊に入隊できる能力の有る人物は少なく、その人選には苦労が続いていました。
そんな中、防衛軍人事部から4S隊に、人員補充の連絡があります。
その噂はすぐに広まり、すでに4S隊内でも、誰が来るのか、その話題に持ちきりでした。

次の日、司令室の扉が開き、隊長と監理官と同行してくる人物の姿が、隊員達の目に入ります。
「オジカ?!」
“ナガイ”隊員の驚きの表情に、にやりと笑みをこぼす“オジカ”隊員。
「ええ、先輩!約束通り来ましたよ!」
「今度4S隊の補充隊員として選抜されたオジカ隊員です。えっと・・ナガイ隊員は、知っているようですね」
“フジ”監理官に続いて、“モリオ”隊長が、“オジカ”隊員と他の隊員を引き合わせてゆきます。
「現状、君を含めて4S隊は5人だが、暫くすればファ、ムロイの二人も戻ってくるだろう」
「其れまでは、なんとか皆で尽力してほしい!」
敬礼をする4S隊員達。
「ところでオジカ隊員の教務担当だが、マミ隊員にお願いしたいと思う」
思わず隊長の顔を見入る“マミ”隊員。
“オジカ”隊員も、女性隊員が教務と聞いて表情が曇ります。
「ああ、本来ナガイに任せるつもりだったが、副隊長と兼任ではな、ちと体がもたん」
「リョウコ君も、ナガイ、ムロイ両隊員の業務の引継ぎに忙しくてな、で 手が空いているのは君しかいない。よろしく頼む」
隊長からの命令で、“オジカ”隊員の教務担当となった“マミ”隊員。
不承不承“マミ”と握手する“オジカ”隊員の姿に、前途多難を予想する彼女だったのです。

4S隊専用兵器の運用習得訓練に参加する“オジカ”隊員。
元来パイロット要員の彼には、なんの問題もない訓練でした。
しかし機体の運用方法で4S隊の隊員達とぶつかる事が多い彼は、チーム内で浮いた存在になっていたのです。
個人技量で秀でている彼は、“ナガイ”隊員以外の4S隊員とそりが合わなかったのです。
特に、彼は“マミ”隊員が、気に入りませんでした。
女伊達らに4S隊員で活動する彼女を、一方的な偏見で異端視していたのです。

ある時、“マミ”と“オジカ”隊員は、新型艇DCクルーザーの運用訓練を実施していました。
DCクルーザーは、宇宙連合から寄贈された重力制御装置(GS)を使い、製造された、海地中専用艇でした。
そのテスト運行で“オジカ”は、“マミ”を脅かそうと画策します。
その姿を嘲笑しようとしたのでした。
管制塔の指示を無視して、炉の出力を臨界点まで引き上げ、GSを最強稼動させる“オジカ”隊員。
その効果で、一気にDCクルーザーは大気圏外へと高度を上げてゆきます。
その速度は驚異的で、艇内Gは8Gにもなろうとしていました。
「あ・・・あん・た!なにしてんの?!!」
押しつぶされる荷重の中から振り絞るように声を出し、“オジカ”を制しようとする“マミ”隊員。
「先輩?ど・・うです?苦・・しかったら・・やめまし・・ょうか?」
“オジカ”の意図を悟った“マミ”隊員は、最後まで付き合うことを決意します。
「あ・んたこそ・・やせ我慢は、や・め・・た・・ほうが良いわよ!」
加速によるGの我慢比べは、DCが大気圏外に飛び出すまで続きましたが、どちらも耐え抜いたのです。
「あんたやるねぇ、感心した!」
停止したDC艇内で、“マミ”が意識を失わなかった事に感嘆する“オジカ”隊員。
その言葉を聞いた途端、“マミ”が素早く反応しました。
“オジカ”の顔面に彼女のパンチが炸裂したのです。
衝撃で気を失う“オジカ”隊員。
「いい?運命の天秤に命を賭けるのは、こんな時ではないの。軽々しく行動しないで!」
そう言い切ると、DCを基地へ帰還させる“マミ”隊員でした。

DCクルーザーの運用で、隊長から叱責される二人。
そんな時、防衛軍の早期警戒システムが、牙獣の侵入を通報してきたのです。
防衛軍の迎撃部隊を突破した牙獣フルトンは、地球に到達すると、地面を掘り返し地中に潜みます。
迎撃で受けた傷の回復を地中で行うつもりだったのです。
攻撃の手が及びにくい地中での活動は、牙獣有利に働き、各地の防衛軍は、次々撃破されてしまうのでした。

牙獣の進路を予測した防衛軍は、4S隊にDCクルーザーの発進を要請します。
敵の目標は、科学特捜隊日本支部!
現在は、科学警察機構の一支部として運用継続している基地ですが、科学局の最大施設として防衛軍の要を担っていたのです。
SJVの光牽引でDCクルーザーを運搬し、目的地に向かう4S隊。
「いいか、作戦を伝える!DCで牙獣を地上に追い込め。奴は地球人が地中を進める兵器を持っていることを知らない。そこを撃つ!」
DCクルーザーは、“マミ”、“オジカ”両隊員を乗せて潜行を開始します。
「いよいよ対決か!わくわくするぜ!」
軽口を叩く“オジカ”隊員に顔を顰める“マミ”隊員。
そんな艇内の雰囲気に関係なく、DCクルーザーは地中に潜行し牙獣を探します。

DCの地中レーダーに牙獣の反応を見つけると、“オジカ”隊員は、猪突猛進に攻撃を開始するのでした。
地中ミサイルで牙獣を追い込むDC。
しかし牙獣フルトンは、自身を高熱源体に変化させ、DCを焼き尽くそうと反撃するのです。
「くそう、振り切れない!!」
「オジカ君!DCをこの地点に誘導して!」
地中レーダーを指差す“マミ”隊員。
“マミ”隊員が誘導した場所、そこは湖を指し示していました。
自身が高熱に発熱し、地中を掘り進む牙獣フルトン。
そいつがDCを追いかけ湖に飛び込めば、その熱が牙獣に重大な傷を負わせることができる・・・。
“マミ”隊員の作戦を理解した“オジカ”隊員は、DCを湖に向かわせます。
「いい、オジカ君!奴が湖に飛び込むと同時に、水蒸気爆発が発生するわ!その時の衝撃波でDCが破壊されるかも!」
「あんたこそ、良い度胸だぜ!」
「命を懸ける・・・死の天秤がどちらに傾くか、あんたについてゆくぜ!」
今“オジカ”隊員は、“マミ”隊員が、自分が考えていたほど弱い存在でなく、一人の戦士として自分と対等な存在である事を認識したのです。
そしてその“マミ”がいる4S隊の優秀性を信じることができた瞬間でした。

遁走を図るDCを追いかける牙獣フルトン。
その魔手がDCを捕らえようとする瞬間、DCは湖に飛び出します。
飛び出した穴に湖水が流れ込んだ瞬間、牙獣フルトンの高熱と反応し、爆発が起こります。
衝撃波は、DCとフルトンを吹き飛ばし、湖に大きな水柱を作ったのでした。
「オジカ君! オジカ君!」
衝撃で気絶した“オジカ”隊員を介抱する“マミ”隊員。
その時、彼女の目に、爆発にも拘らず存在している牙獣フルトンの姿が映ります。
「やはり不十分ね。アルヴィス、お願い!」
彼女は艇外へ飛び出すと、アルヴィスに変身し、フルトンと対決するのでした。
手傷を負ったフルトンは、自慢の高熱攻撃ができず、アルヴィスに抗うことは無理でした。
アルヴィゥム光線で、爆砕されるフルトン。
地球に侵入した牙獣は、ここに潰えたのでした。

「先輩!」
“オジカ”隊員の声に振り返る“ナガイ”副隊長を尻目に、彼は“マミ”隊員の元に駆け寄ります。
「先輩、見直しました!これからも宜しくお願いします!!」
驚く“マミ”隊員の背後から“リョウコ”隊員が茶化します。
「あら、マミ、良かったわね。貴方の小雀ちゃん、やっと懐いたみたいね」
「小雀?」
「懐いた??」
その言葉に反応する“マミ”と“オジカ”の姿に、4S隊員の笑い声が響くのでした。
【第29話/完】




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