第30話

牙獣 ピクズリュウリゥ
登 場




ネロンガ・ガボラ・アボラス・テレスドン・ゴモラ・スカイドン・シーボーズ・etc.etc.・・・

この怪獣の群れ・・・説明せねばなりませんね。
ご承知かとは思いますが、初代ウルトラマンが地球上で活躍していた頃、我が日本では怪獣ブームが沸き起こっていました。
およそ週に一度はテレビのニュースで放映される銀色の巨人と怪獣の戦いの映像に、当時の子供たちは激しく興味を抱いたのです。
この状況を玩具メーカーが見逃すはずがありません。
現実に起こる怪獣災害など当事者でなければ所詮ニュースの中だけの話。各社こぞってウルトラマンと怪獣のオモチャを企画・販売しました。なにしろ現実に現れるものなので、どこにも版権料を支払う必要が無いのですから。
ニュースで見た怪獣が数週間後には店頭に並び、子供達は我先にそれに群がりウルトラマンごっこに熱中していたのです。
そして衝撃的にウルトラマンが地球を去った後、その悲しみの反動でブームはさらに加熱し、ついにはウルトラマンを題材にした特撮テレビドラマまで制作されるに至りました。
しかし、ブームというのは永遠に続くものではありません。次第に子供たちの熱も冷め、興味は他に移っていきました。
それから××年、人類は火星圏にまで行動範囲を広げ、空間転位航法も開発、外宇宙にも進出しようとしていました。
ウルトラマンはただ単に過去の歴史上の一事象として認知される程度になっていました。
ウルトラマンアルヴィスが現れるまでは・・・。
そう、ここはそんな時代を生きてきたある男の部屋なのです。


「ただいまー」 帰宅した男を出迎えに来る娘。
「おかえりなさーい。あ、また買ってきてる。ちょっとお母さーん!お父さんが又怪獣買ってきてるよー!」
「もぉー、いいかげんにしてよ。ただでさえ狭い部屋をそんな古い怪獣の人形で埋め尽くして・・・骨董屋にでもなるつもり?」 怒りながらも半ばあきらめ顔で男の妻が出てきました。
「いやぁ、やっと手に入ったんだよ、第一期の尻尾可動ガラモン。このウルトラマン登場以前の怪獣達って少数しか生産されてなくってさぁ・・・」
「世間では牙獣で大きな被害が出てるってのに、そんなもの買ってきて、だいたい不謹慎じゃぁない?」
「ほら、このくるみ塗装の状態もイイだろ?記名もないし。袋無しだけどさ、こんなミントに近い品そうそう出やしないよ・・・」
全く聞く耳持たない男はそのまま自室に入っていきます。2人して顔を見つめ合い、ため息をつく妻と娘。

机の上にガラモンを置き、しばらくニヤニヤしながら眺めた後、PCの電源を入れてメールを打ち始める男。 カレンダーの日付は7月1日です。

『暑中お見舞い申し上げます。
真夏日が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか。
私のほうは、お陰さまで毎日元気に過ごしております。
この猛暑は当分続きそうですので、お体を大切になさって、健やかな日々をお過ごしになりますようお祈り申し上げます。
さて本題です!今年も7月7日が近づいて参りました。
例年どおり、いつもの場所・いつもの時間にお待ちしておりますので是非お越し下さいませ。お待ちしております!
---ムシバより---』

「えーっと、・・タカシ・ゼロ戦・サスケ・オバケ・チャコ・・よし、送信っと!」


深夜、サブリナス地球統合本部/通称Umbrella baseの特務科学特捜隊司令室に、科学局から緊急通信が入ります。
インカムにて報告を聞く“モリオ”隊長。
転送されてくるデータを見入る“ナガイ”“リョウコ”“マミ”“オジカ”の4名。
「!」 「これは・・・」 「たしか・・・」 「おおっ!」
「諸君、そのデータのとおり、先程、科学局が宇宙線の変動をキャッチした」
インカムをはずし一同に話す隊長。
「隊長!これは、あの」 「××年前にもやって来た」 「あの宇宙線ですか?」 「ひゃあ〜」
「そうだ。前期科学特捜隊時代に起こった事件と同種の宇宙線だ」
「えーっと・・・ガ・ガ・・・ガバドン!でしたね」
「オジカ隊員、ダメダメ、発音が違うわ。ガ・ヴァ・ドン!」
「そうよオジカ君、ウに点々でガヴァドンよ!」
「何言ってんすか!あれは教本によって表記の仕方まちまちだったじゃないすか!」 もめる3名。
「みんな落ち着け!名前なんて今はどうでもいい!そんな事よりもっと良くデータを見てみろ!」
制す“ナガイ”。
隊長が続けます。
「知っての通り、この宇宙線に含まれたある種の新元素を含有する放射線と太陽光線が融合すると、二次元のものが三次元の物体に変動する現象が起こる。前回は3例発生した」
「隊長、言わせてください!スイス・ベリンツォーナの古城城壁への観光客のミッキーマウスもどきの落書き、南アフリカ・ムプマランガ州のエコー洞窟壁画公開エリア入場口への観光客による牛の落書き、そして日本・東京のヒューム管工場敷地内土管への怪獣の落書き、ガ・バ・ド・ンですね!」
得意気に“リョウコ”“マミ”をちらと見る“オジカ”。
負けじと“リョウコ”が語りだします。
「この3例の発生現場状況の共通点は、1.画が描かれたベースを構成する主要成分が粘土・砂・及びケイ酸質を多く含む石灰石である。2.クレヨン・チョーク・マジックインキのいずれかもしくは全てを使用して落書きされた。3.いずれも満12歳未満の子供のイタズラ、の以上わずか3点のみで、日照時間・気温・湿度・緯度・経度、その他の共通点は全く認められなかった」
「そして何故この3例だけで済んだのか?この前後1ヶ月に相次いで地球に飛来した“生きた鉱物/俗称ギャンゴの石”と“ブルトンの隕石”との類似性についても調べられたが、結局宇宙線の正体は何なのかは現在に至っても解明されず・・・ですよね」
“マミ”のこの言葉に、“モリオ”隊長はスクロールさせたデータを指差します。
「これが出た」 モニターに表示されたデータを見て、一同の顔に緊張の色が走ります。
「ディファレーター!」 「・・・メセドメキア!」
「うむ、ティシュトリヤ星人“メルビス”からの情報により研究が始められた未知の物質ディファレーター。この、メセドメキア本体から多量に検出される光波が、今回の宇宙線からも検出された」
隊長のこの言葉に“マミ”の顔は曇ります。
「まだメセドメキアとの因果関係は解かっていない。ただ今回の宇宙線の放射量は前回とは比べ物にならん程多量だという事だ。防衛軍は緊急警戒態勢に入った。我が4S隊もただちにパトロールを開始する!!!」

しかしその時、すでに異変は起こり始めていたのです・・・。


数日後、朝のテレビのワイドショーで“ムシバ”は信じられない光景を目にします。
サブリナス地球統合本部の周りでイビキをかきながら眠る怪獣・怪獣・怪獣の群れ!基地周辺は言うに及ばす、傘上部の電磁カタパルト上で寝息をたてる者や海上でプカプカ浮きながら眠る者まで。ざっと30匹以上はいます。
「何の冗談?」
そこに玄関のチャイムが鳴り、妻が応対に出ます。あわてて戻ってきた妻が一言。
「あなた、何やらかしたのよ!」
訪問者は4S隊の“マミ”“オジカ”隊員でした。
「はじめまして、○○さんですね。小学生時代のニックネームは“ムシバ”さん、ですね。是非ご同行願いたいのですが」

サブリナス基地へと向かうSJV機内で、“ムシバ”は今回の顛末を聞かされます。
ワイドショーの映像は3日前のモノだという事。3日前から例の宇宙線が地球に降り注ぎ始めた事。
実体化した怪獣達は、何と日が沈んでもそのままだという事。
そして、何故あんなに多数の怪獣が発生したかというと、実は前回の事件後、国際科学警察機構は宇宙線の謎を何としてでも解明したくて特製の研究施設を作り実験を繰り返していた事があり、その時に描いていた怪獣の画が全て実体化してしまったというのです。
「幸い今はまだ眠っているだけで危険は無いのですが、なにしろイビキがハンパじゃなくて・・それに軍事設備の運用にも支障をきたしてます」
この3日間眠っていない充血した目で“オジカ”が話します。
同じく眠そうな目の“マミ”
「とにかく、何故太陽光線無しでもそのままなのか、何故あのエリアだけに起こったのか、その謎を解き、あの怪獣達を天に帰すには、ムシバさん、あなたのデータが必要なんです!」

基地に到着した3人は、眠る怪獣の群れの横をすり抜け研究施設へと向かいます。
そして“ムシバ”の目の前に現れた光景は、あの、××年前の土管置き場がそっくりそのまま再現された空間でした。
「前回あそこまで完全に実体化したのは日本だけでした。各種データを研究した結果、この環境が一番条件的に良いという事までは解っているんですって」
「しかし本当に私のデータがそんなに重要なんでしょうか?」
「はい!残るはムシバさんの、純真無垢な少年の気持ちの部分だけなんです!!!・・って科学局の者が言うんです・・・」
「もう少年じゃないですけどね・・・」苦笑いする一同。

“ムシバ”に対する研究はすぐ開始されました。
まずは現在の脳の状態をあらゆる角度から徹底的に調べ上げられましたが、その結果やはり当時の思考パターン及び脳波が重要だという話になり、催眠導入法が取り入れられます。
頭やら体やらに奇妙な機器を取り付けられた“ムシバ”は、だんだんと子供時代に還っていきます。
「ねぇ、ムシバくん。ガヴァドンの画を描いた時の気持ちを聞かせて」 科学局局員の質問に次々答えていく子供時代の“ムシバ”。
「みんながオレのガヴァドンバカにして・・デカくなりゃ怖くなると思ったんだよ」
「ガヴァドンがホントに怪獣になった時はうれしかったなぁ」
「オレって何やってもダメだからさぁ、みんながおめでとうって言ってくれて最高だったよ」
「みんなと一緒に描き直した時もすげぇ楽しかったなぁ」 「ヒゲオヤジしつこいんだヨ」
「寝てるばっかりでさ、イライラしたんだけど、でもカワイイ奴なんだよ」
「何もしてないのに攻撃されて・・・大人は勝手だよ」
「ウルトラマンなんて消えちまえーって・・・」
データは克明に記録されていきます。・・・しかしそのシステムに何者かがアクセスしている事は誰も気付きませんでした。

「どうでした?ムシバさん」 一日目の検査が終わり、土管置き場を散歩していた“ムシバ”に“マミ”と“オジカ”が話しかけます。
「いやぁ〜良く覚えてないのですが、頭の中を覗かれるのって何か恥ずかしいやらくすぐったいやらで、変な感じです」
「かなり参考になりそうだと科学局の者が言ってましたよ」
その時突如天空が掻き曇り、眠っていた怪獣達の目が怪しく光り出してアメーバ状の触手を体から放ち、みるみるうちに30数体の怪獣達が合体していきます。牙獣化したのです!
「ど、どうして?」 驚く“マミ”たちに向けて牙獣の触手が飛びかかります。触手は施設の壁を砕き、“ムシバ”をかばった“マミ”と“オジカ”に降り注ぎます。負傷する2人。
「ム、ムシバさん、すいません。そこのシェルターに避難して下さい!」 2人は傷をかばいながら4S隊区画へと急ぎます。
牙獣は自分の体から分かれた数体の分離体でサブリナス基地の各種兵器発進口を塞ぎながら本部に迫り、さらに分離体を一般居住区へと放ちます。
「そんな事はさせない!」 “オジカ”と分かれた“マミ”はアルヴィスへと変わり、間一髪、分離体を撃破。
続いて本体へジャストフラッシュを発射しようとした時、分離体がアルヴィスの四肢を封じてしまいました。そこに光線を浴びせる牙獣。さらに本体からの触手がアルヴィスの全身を締め付け、鋭いキバで首筋に噛み付きました。
そう、これはまさに、あの当時ウルトラマンとガヴァドンの対決を見ていた“ムシバ”が心の奥で願っていた光景そのものだったのです・・・。

「ああっ・・アルヴィスー!」
牙獣にいたぶられるアルヴィスの姿が、××年前ニュースで見た宇宙恐竜ゼットンに倒されるウルトラマンの姿とダブりました。
あの悪夢の光景が再び繰り返されようとしている・・・。
シェルター入り口から一部始終を見ていた“ムシバ”は意を決して土管置き場に走ります。そして無我夢中でウルトラマンの画を描き始めたのです。
「ウルトラマン、あの時は帰れとかバカヤローとか勝手な事ばかり言って本当にごめんな」
「・・放っといたら消えちゃうガヴァドンを、わざわざ宇宙に運んで星にしてくれた・・」
「そんな君の優しさに気付くのに10年はかかったバカなオレたち・・」
「大好きだよ、ウルトラマン」
「ウルトラマン、どうかアルヴィスを助けてあげて下さい・・・」
“ムシバ”はありったけの思いを込めてウルトラマンの画を描きあげたのです。そして空を見上げて叫びました。
「頼むぞ、ガヴァドーン!」

その時奇蹟が起こりました。
ウルトラマンの画が一瞬輝いたかと思うと、目とカラータイマーに光が宿り、みるみる隆起しだしてまばゆい閃光と共に巨大化したのです。
画に描いたヒーロー、ここに甦る。その名はウルトラマン!
アルヴィスのエネルギーを吸収する牙獣にウルトラマンの急降下キックが炸裂します。
もんどりうって倒れた牙獣にすかさずアタック光線の一撃。凝固する牙獣。ウルトラエアキャッチにて分離体の動きも封じました。
ウルトラマンはアルヴィスに目で合図し2人でとどめの光線発射!アルヴィゥム光線とスペシウム光線を同時にあびて牙獣の本体は四散し、分離体も消滅しました。
夕焼けに染まるUmbrella baseをバックにアルヴィスと見つめ合うウルトラマンは、夕陽が沈むと同時に消えてゆきました。


7月7日七夕の夜、天気はあいにくの小雨。空には雲がかかって星はほとんど見えていませんでした。
“ムシバ”から毎年恒例の七夕の行事の話を聞いた“マミ”は、是非私もとお願いして、この集合場所へやって来たのです。
【私立宇宙科学・怪獣博物館】前にはすでに全員集まって話に華が咲いていました。
ムシバ・タカシ・ゼロ戦・サスケ・オバケ・チャコとそれぞれの家族、総勢20名以上います。
「ようこそいらっしゃいました〜」皆から歓迎を受ける“マミ”は、全員と共に博物館内へ進みます。
「ムシバさん、今日はこんなお天気で残念でしたね」
「ええ、まあ、お天気だけは仕方ないですね。でもいいんです、ガヴァドンはいつもココにいますから。・・って、こんなオヤジがよく言いますね」
胸に手を当て照れながら話す“ムシバ”を見て“マミ”は微笑ましく思います。
「と、いいながらもやっぱり逢えないのは寂しいので、こんな時の為に10年程前からこれをね」
そう言うと“ムシバ”は奥へと駆け出します。気が付けばここはプラネタリウムルームでした。
しばらくして照明がだんだんと暗くなり、一同は待ってましたとばかりに座席シートに腰をうずめます。
“マミ”も皆にならって座ると・・・
仰ぎ見るドームに映し出された七夕の夜空にひときわ明るく輝くガヴァドンの星!
その横で優しく見守るウルトラマン・・・と、アルヴィスの星もありました。
「今年から彼も仲間に入っていただきました」 沸き起こる拍手。
「ガヴァドーン!元気でやってるかぁー!」 「風邪なんかひいてないかー」
「たまには起きて運動でもしないとオレみたいな腹になるぞー・・あ、もうなってるか〜ハハハ」
「ウルトラマーン!また雨ですか〜。(笑)うそうそ、今年もありがとぉー!」
「アルヴィスー、ガヴァドンの事よろしくねー!」

“マミ”は思います。
今回と××年前の謎の宇宙線の正体は一体何だったのでしょう?
全てメセドメキアによる計画的な地球侵攻作戦の一環だったのか?
それとも謎の宇宙線をメセドメキアが利用しただけなのか?
生命誕生の鍵を握る宇宙線なのか、はたまた只の偶然の産物によるものか?
もしかしたらそれは永遠に解明されない宇宙の神秘なのかもしれません。
しかしこれだけはハッキリと確信できました。
先代ウルトラマンと子供達の間にはとても素敵な心の交流があり、監理官から聞いたそのウルトラマンの、共生体の青年と我々地球人に対する深い愛と友情は、たとえどんな理由があろうとも、決して偽りなんかじゃなかった。
そしてそれらは全て私とアルヴィスの関係にも同じ事が言えるのです・・・。
優しい顔付きで星空を見つめる皆を見ながら、地球人にとっての[ウルトラマン]という存在、そしてアルヴィスに対して、私はもう決して迷わないと、あらためて固く心に誓った“マミ”でした。
【第30話/完】




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