第32話

ウルトラマンジュダ
牙獣 ガモラフ
登 場




地球の胎動が、地響きとなってこのサブリナス諸島を揺るがします。
大気は乱れ、嵐の大海は、地獄の有様だったのです。
世界各地では、地殻変動や異常気象の影響で多数の被害者が発生しており、宇宙連合や防衛軍、各国の機関の救出活動も阻害されていました。
4S隊基地もその影響を免れることはできず、多くの被害が発生していたのです。

「SJV発進リフト故障、各部の電気系統の作動不良!」
「主動力部の冷却パイプ破損!作動停止させます!」
「第16・17ブロック、地殻変動で沈下、死傷者多数!救難チーム応援願います!」
各部署から入る連絡は、この基地の被害の大きさを物語っていました。
「くそう!各部署との連絡もままならない!」
「全ての職員は、復旧に努力せよ!今牙獣が現れたら手も足もでないぞ!!」
“モリオ”隊長の激が飛び、4S隊も復旧作業を急ぎます。
「しかし、あの二人は、何処に行ったのだ?外の状況を考えると心配だが・・・」
“モリオ”隊長は、“マミ”と“ファ”の消息を心配していました。
怪しい人物の追跡の許可を願い出た通信の後、途絶えてしまった彼女らを・・・。

サブリナス諸島の海岸線。
ここに対峙する3人の戦士。
「こういうことよ。いくらLWDでも、地球自体が攻撃を受ければ、その防衛能力は発揮できないわ!」
「聞こえるかしら?人々の叫びを、救いを求める慈悲の声を・・。私には聞こえるわ!地獄の悲鳴が・・・」
甘美に震え、喜びの表情を呈する“ユウコ”の姿に、“マミ”は、怒りを隠せません。
「さようなら・・ユウコさん、もうこれ以上は何も話すことはないわ!」
そう言い放つと再びイヤリングを取り、アルヴィスに変身するのでした。
「マミ!!・・・ユウコ!」
“ファ”は“マミ”が、本気で“ユウコ”を倒す決意をした事を感じ取り、“ユウコ”へ戦わない事を願おうとします。
しかし、“ユウコ”もまた、カラータイマーを翳し、ジュダへと変貌しようとしていました。
「私は、私の邪魔をする者を許さない。私の思いは、私の誓いは・・・・ジュダ!!!」
2つの光の玉が、サブリナス諸島を飛び出してゆきます。
悲しみに崩れ落ちる“ファ”を残して・・・。


光の玉は、ぶつかり合い、絡まりあい、弾かれ、衝突を繰り返しながら、地球を渦巻く大気の中を飛び回ります。
しかしこれは、戦士のぶつかり合いでした。
互いに、信じる限りの思いで、自分自身の力の限りに戦う、誇りをかけた決闘とも言える戦いだったのです。
攻撃は、お互いの身を切り、心を切り、そして共生体の存在へも影響を与えていました。

≪アルヴィス兄さん、何故僕が、LWDを破壊せずに、地球攻撃を行っているか、わかるかい?≫

突然の精神波に戸惑うアルヴィス。

≪なに?どういう意味だ!≫

ジュダの光弾をはじき返すアルヴィス、と同時にスラッシュを撃ち放つ。

≪そう、故郷の星で見つけた古代遺跡の話をしましょう≫
≪僕は、キアの遺跡を見つけたのです≫

キアの言葉を聞いてアルヴィスの動きが止まります。

≪キアとは、あのキアのことか?ウルトラの古代文明が作り出したと言われる物質換装機のことだな≫

ジュダも動きを止め、アルヴィスと向き合います。

≪僕もそう思ったんですよ。でも調べていくうちにキアの正体が、判ったのです≫

≪どういうことだ、ジュダ≫

≪キアは、メセドメキアを生み出した時の母体、物質も精神も浄化換装する機械だったんですよ≫

驚く、アルヴィス。

≪過去、ウルトラの戦士達が起こした間違いの元凶、それがキアで、今だ故郷に存在していると・・・?≫

≪ええ、そうです、アルヴィス兄さん≫

アルヴィスの精神に直接キアの画像を見せつけるジュダ。

≪今、メセドメキアは、銀河の多くと敵対しているため、戦闘消耗が激しく、力が弱まっているのです≫
≪だからキアを作動させれば、そのエネルギーをメセドメキアに吸収させて、回復させる事ができる・・・≫

アルヴィスは、ジュダの言葉やしゃべり方に、何か隠された事実があるように感じていました。
そう、ジュダの本心は別にあるのではないかと。

≪ジュダ!ならばなぜ我らの故郷を、この太陽系にまで送り込む必要があったのだ?≫

≪流石、アルヴィス兄さん!良い所に気づきましたね≫
≪それは、キアが作動するためには、触媒が必要だったんですよ。触媒がね・・・≫

訝しげなアルヴィス。

≪メセドメキアは、負の意識の集合体である事は、ご存知でしょう。その負の意識をM78では、もう得られないんですよ≫

≪ジュダ、M78だけでは足りなくて、銀河の生命体も、生贄にするつもりなのか?≫

憤怒のアルヴィス。

≪そう。そしてこの星系の住民こそ、感情に左右されやすく、畏怖の心を制しやすい生命体なのです≫
≪私の共生体が、そうであるように・・・≫

アルヴィスのエッジが、ジュダに炸裂します。
ジュダは吹き飛ばされ、海面に叩きつけられます。

しかしジュダは立ち上がり、アルヴィスの前に立ちはだかります。

≪太陽系の、銀河の生命体を利用してメセドメキアの力を増幅するだけでは、ありませんよ。兄さん≫
≪僕は、もっと崇高な目的で生きていますから≫

ジュダの言葉に耳を傾け、その本心を探ろうとしていたアルヴィス。
しかしジュダの本心は、探りきれません。

≪兄さん、僕の精神を探っても無駄です。貴方に見つけられるはずがない!≫
≪僕の計画は、もう始まっています。そしてそれにはもっと負の意識が必要なのです!!≫

アルヴィスのエッジが再びジュダに炸裂、ジュダに傷を負わせます。
手傷を負ったジュダは、アルヴィスに向かうと、高々とウルトラの星を指差します。

≪でも、足りないのです、まだ闇の心が、苦しみが、悲しみが・・・≫
≪アルヴィス兄さん、そして共生体のマミ、君達に選択させてあげよう、これは私からのプレゼントとして受け取って欲しい≫

ジュダの指先から光が迸ると、遠く離れたLWD基地の地下から、牙獣ガモラフが出現します。
ガモラフは、一気にLWD基地を粉砕、地球を覆う盾が消失してしまったのです。

≪これで地球は、無防備になった。ここで小惑星を打ち込むと、どうなるかな?≫

ジュダの動きをさえぎるべく突進するアルヴィス。
しかしジュダの姿は、掻き消えます。

≪どちらを選択するかは、君達次第だ。ユウコも楽しみにしているよ、どちらを選ぶか・・・≫

ジュダの言葉の意味が悟れないアルヴィスと“マミ”。


その頃防衛軍では、新たな小惑星の接近を察知していました。
「くそう!LWDさえあれば・・・」
「直撃すれば、全人類は死滅するぞ」
強大な小惑星の激突は、地球生態系の破壊を導き、人類の生存さえ望めなくなってしまうでしょう。
誰もが絶望に打ちひしがれた時、連合の宇宙船から緊急通信が入電するのです。
「隊長!連合の戦艦が、小惑星を砲撃で打ち砕くそうです」
それは、戦艦アルガドバンに地球側代表として乗り込んでいた“フジ”監理官の要請により実現したものでした。
成功の確率は50%でしたが、座して状況の推移を見守ることはできないと、作戦は決行されます。

アルガドバンの砲塔群が、小惑星に指向されます。
「用意・・・・撃て!!」
光の渦がアルガドバンより吐き出され、小惑星に向かってゆきます。
小惑星に着弾し、輝く光の中に小惑星が融けてゆく姿が垣間見られます。
「成功だ!」 「やったぞ!!万歳!!」
世界各地で生き残った放送関係者が、小惑星の姿を映しており、状況を見ていた地球や連合の人々から歓喜の声があがります。
しかし、小惑星の全てを撃破することは、できなかったのです。
20kmもの破片が、地球を目指すのが、映し出されたのでした。
「もう一度、砲撃は可能ですか?」
アルガドバン艦内で尋ねる“フジ”監理官に、連合の指揮官は静かに首を振るのでした。

分析により、落下地点は太平洋中部。
衝撃により、2000mは超える高さの津波が、音速の速度で太平洋岸一帯を襲う事でしょう。
「全ての危険地帯に緊急避難命令を!急げ!」
防衛軍総参謀長の命令に全ての職員が作業を開始する中、一人の参謀が耳打ちします。
「ここもいずれ津波に見舞われます。基地が耐えうるかどうか・・・・?」
「そして全職員の脱出も間に合いません」
苦悩する総参謀長。
「我々がここを離れるわけにはいかない。が、被害は最小限に抑えたい。至急、最小限の人員を残して、退避を進めてくれたまえ」
「分かりました、全力で任務に当たります」
敬礼し、司令室をでる参謀。
残された防衛軍司令部には、最後の任務を果たすために切磋する人々の姿が、そこにありました。

「アルヴィス、私達の力で小惑星を止められない?」
“マミ”の提案にアルヴィスは、残念そうに答えます。

≪すでにジュダとの戦いでエネルギーが不足している。とても破壊は不可能だ≫

「でもなにか・・・なにか手立てが・・・」
その時、二人の心に呼びかける声がありました。
「ファ?!」
「マミ!私が今からアルヴィスと共生します。これで力が少し補充されるはず」
“ファ”の提案にアルヴィスは、“ファ”の意図を察します。

≪ファ、アルヴィスバリアーを使うのだな≫

「ええ、アルヴィス。落下地点を中心に円形にバリアーを張り、津波を防ぎます」

≪しかし、それでも今のエネルギーでは、全てを囲みきれない≫

「でしょうね。でも波の高さが低くなる落下地点で展開すれば、押さえ込むことができるわ!!」
“ファ”の提案に“マミ”も同意しようとしますが、アルヴィスが言葉を挟みます。

≪落下中心点から500kmの円にバリアーを張るか・・・しかし・・・≫

「何?アルヴィス、何か問題でも?」
“マミ”の質問に“ファ”が、その答えを、彼女に教えます。
「マミ、ジュダとユウコさんが言っていた選択の事よ」
「え?!」

≪500kmの中にサブリナス諸島が含まれる。すでに脱出が始まっているが、3000人以上はあそこに居るだろう≫
≪彼らを守るために半径を縮めると、衝撃波でバリアーが持たない。太平洋岸の住民に大きな被害がでるだろう・・・≫
≪選択の意味が、これだったのだ。マミ!!≫
≪君たちに近い親しい人々の居るサブリナス基地か、見知らぬ数多の沿岸の民か、どちらかを選べという・・・≫

究極の選択に、狼狽する“マミ”は、決意ができません。
「ファは? ファだったらどちらを・・・」
問いかけに“ファ”は、優しく答えます。
「マミ、貴方が選びなさい。少しでも貴方の救いが必要な人々を。その結果で、誰も貴方を責めたりはできないわ」
「でも基地には、基地にはファの・・・ムロイ隊員も・・・」
「いいの。大丈夫。彼は大丈夫よ。きっと又会えるわ、そう信じてる」
“ファ”の心遣いは“マミ”に痛いほど理解できていました。
“マミ”が無為の人々を救おうとするだろうと。
その為に基地の人々を見捨てることを。
その為に自分の愛する人を見捨てなければならないことを。
そんな“マミ”を気遣い、その選択を選ばせようとしたことを。

≪さあ、行こう。時間があまりない≫

アルヴィスは、“マミ”、”ファ“を伴い、目標地点でその時を待ちます。


天空を引き裂く爆音と共に、小惑星が大気圏を滑空して落ちてゆきます。
業火は空を焦がし、海面に落下した破片の衝撃で巨大な水柱が立つと、海はそれの影響で泡立ちふきあがります。
そしてそれは大きな津波となって疾走し始めるのです。

≪いくぞ、マミ、ファ!≫

掛け声と共にバリアーを張り巡らす、アルヴィス。
「お願い!止まって!!」
津波の衝撃は、それを突き破ろうと、押し返してきます。
「うわゎあああああ!」

バリアーに弾かれる衝撃波。

津波は、アルヴィスのバリアーによって押しとどめられたのです。
海は穏やかな姿に戻っていくのでした。

必死の二人の意思の力とアルヴィスの力は、津波の衝撃から人々を救いました。
しかし犠牲も少なくはありませんでした。
サブリナス諸島防衛軍基地は、津波の衝撃で倒壊。
基地職員、民間人1200名の被害がありました。
しかし、宇宙連合の救難活動のおかげで、2000名以上が救い出されたことは、幸いでした。
この戦いで、地球人類2億の人々が死傷し、大きな被害を受けたのです。
そして太陽をはさんで地球軌道に移動したウルトラの星。
脅威は、過ぎ去っては、いませんでした。
しかし、今は生きている喜びを、分かち合う事しか人々にありませんでした。
それは破壊されたサブリナス諸島基地でも、同じでした。
生き残った人々と無事を喜び合う仲間達。
その中に抱き合う“ファ”と“ムロイ”の姿が、ありました。
それを見る“マミ”の目に、涙が光るのでした。
【第32話/完】




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