第34話






地球防衛の要を失った防衛軍と国連に、宇宙連合から現在太陽系に駐留している戦艦アルガドバンの譲渡の申し出がありました。
連合でも最大級に属する戦艦アルガドバン。
全長3000mにも及ぶ円盤型船体に各種の攻撃兵器を有するそれは、1隻で惑星を葬る力を有していたのです。
メセドメキアとの戦いで、中核を成す地球の戦闘力喪失は、連合にとっても痛手でありました。
その為、連合は最大級の艦船を譲渡する事で、地球の戦闘能力を再編し、連合の維持、結束を固めたい思惑もありました。
しかし、地球にしてみれば、渡りに船であり、にべも無くその申し出を受けたのでした。

基地の提供で、多くの問題が、山積していました。
まずは、異星人の船であるがゆえに、装備品の多くが地球人に適合しない事でした。
座席、テーブル等の備品から、武装、通信機器等、まさに総入れ替えの有様だったのです。
メセドから帰還した4S隊が新基地に到着したのは、丁度そんな時だったのです。

戦闘艇が艦内ドックに着岸すると、外には出迎える“フジ”監理官、“アラシ”参謀の姿が見られました。
「お帰りなさい、任務ご苦労様でした。報告は、直接執務室で受けるわ」
管理官の申し出に敬礼で返す“モリオ”隊長は、二人を見据え、お願いするのでした。
「了解しました。私からも留意する部分がありますので、直接に報告したいと思います」
意外な申し出に顔を見合す“フジ”と“アラシ”の二人。
持ち帰ったディスクに関する事情だと推察した彼女らは、執務室での協議に入るのでした。

一方、他の4S隊員達は、引越しと荷物の整理に借り出されるのでした。
膨大な資材と備品が次々と地球から届けられると、搬出口から各部署に送られます。
その物品の梱包を解き、指定された場所に届ける作業を繰り返す4S隊隊員たち。
「ちょっと、なによこれ?バスルームに機関砲届けてどうすんのよ?」 「あれどこやった?あれ?・・・」 「ないないない・・・ない・・・」
“リョウコ”と“ムロイ”隊員は生活施設を主に担当していたのですが、備品に間違いが多く、苦慮が窺い知れます。
“ファ”と“ナガイ”副隊長は、新基地内の把握に努めていました。
“ファ”の記憶力と異星に精通している事は、基地の状況把握に非常に役に立っていたのです。
「ええ、ナガイ副隊長、それはその通りですが、使い方が・・・」 「ほう、そうだったのか!ありがとうファ!」
“ファ”隊員のアドバイスに感心する“ナガイ”副隊長の姿が余りにも良い感じなので、気が気でない人が一人・・・。
“ムロイ”隊員が“ファ”の様子を見に来るのが、“ナガイ”には、可笑しくて仕方ありません。
「おい、ムロイよ。あんまりサボっていると・・・」
部署を離れてサボっている“ムロイ”隊員の首根っこを捕まえて戻る、“リョウコ”隊員の姿がありました。

“マミ”と“オジカ”隊員は、新司令室を担当していますが、やはり此処でも事情は、同じでした。
「先輩、頼みますよ。使った備品は、元に戻しておいて下さい!」 「ここに置いたんだけどなぁ??」 「勘弁してくださいよ・・・」
使った器具を何処かに置いてしまい、失ってしまった“マミ”隊員に呆れる“オジカ”隊員。
こんな時は、全く立場が逆転している様子が、周りで作業している職員たちの笑いを誘っていました。
「先輩!ここは任しておいてください。それより、お願いがあるのですが」
“オジカ”隊員は、“マミ”が作業の足手まといになる為、食事の手配をお願いしたのでした。

「オジカの奴、私をお茶くみだと思っているのかしら?」
不承不承、皆の弁当を食堂に取りに行く彼女でしたが、余りにも広い艦内に迷子になってしまうのでした。
「え・・・と、ここ、じゃない・・・」
幾度も同じような通路を往復するだけで、一向に目的地に着く気配がない状態に“マミ”も不安になっていきます。
「そうだ!通信機で連絡を取れば・・・ん?!・・・なんで使えないの??」
元来軍艦であった新基地は、無用な電波を放出しないようになっていたので、彼女の通信機は使えなかったのです。
「えっと、たしかオジカがくれた艦内図では・・・、この地図、基点がないじゃない!酷いものね」
基点がないので、彼女が現在何処にいるかが判断できないのです。(つまり、北が分からないようなもの)
そんな“マミ”の前を通り過ぎる、一人の職員がいました。
配膳車を押しているので、生活部の人間だとわかります。
「あっ!あのう、すいません!」
慌てて後を追いかけ、配膳食を頼もうとした彼女でしたが、その様子が変な事に気づきます。
配食車を押しながら、各部署を廻っているのですが、何も届けようとはしないのです。
≪おかしい・・・皆、今は忙しくて、配膳している人に注意を払っていないけど、配食していない事に気づかないのかしら?≫
配膳車が止まり、係りの人物が降車して、部屋に入ってゆきます。
“科学特捜隊・解析センター”
人物が入った部屋は、幾多の情報を解析する部署で、4S隊にも防衛軍にも重要な施設でした。
しかし接続IDを持たない“マミ”隊員は、部屋に入る事ができません。
“マミ”は、仕方なく配膳車にある弁当を持てるだけ持って、自分の部署に戻る事にしたのです。

食事の手配をお願いしてから、1時間以上も連絡の途絶えた“マミ”隊員を4S隊員達は、心配していました。
「オジカ!ちゃんとマミ隊員に、基地内地図渡したんだろうな!」
“ナガイ”副隊長の言に、“オジカ”隊員も反論口調で、返します。
「ええ、渡しましたよ。でも連絡はないし・・・何処かで迷子になっているんではないですか?」
彼の言う事も、もっともだと、肯く他の4S隊員達。
そこに通路の向こう側から、大荷物を持って“マミ”隊員が、現れるのでした。
「オジカ、手伝って♪」
皆の心配を他所に、気楽な声で手伝いを頼む“マミ”隊員に、気が抜けそうになる彼ら。
「遅いですよ、先輩・・・。何処で道草食っていたんですか?!」
彼の言に、舌を出して微笑む“マミ”隊員でした。

彼女の持ってきた弁当を皆に配り、早速封を解こうとする4S隊員達。
逸早く“オジカ”が、その封を切り、蓋を開けようとする瞬間、“ナガイ”副隊長が、声を張り上げるのでした。
「皆!!開けるな!」
その声に驚き、開封の手を休める隊員達。
「先輩?なんなんです?」 「びっくりした!!」
皆の不平を尻目に、“ナガイ”副隊長は、弁当を司令室のCT解析装置に静かに置きます。
稼動させると、弁当内部が映し出されます。
そこに映し出されたものは、なんと弁当ではありませんでした。
「FFVD・・・」
“ファ”が呟くと同時に“ムロイ”隊員が、言葉を荒げます。
「それって、宇宙連合の爆弾じゃないのか?」
皆が顔を見合わせ、弁当を運んできた“マミ”隊員を、見つめます。
「え?私???私は、何も知らないわ!」
爆弾の事を自ら否定する“マミ”隊員に、“ナガイ”副隊長は、質問するのでした。
「誰も君が犯人だとは、思ってないよ。犯人なら同じ爆弾弁当を開封するはずが無いしね」
彼女の弁当は、“オジカ”隊員の次に、素早く開封されそうな状態でテーブルに置いてあったのです。
「これは、何処から運んできたんだい?」
「ええ、オジカ隊員のくれた地図は、基点が無かったので、道に迷っていて、配膳車を見つけたんです」
「えーと・・・、確か解析センターの近くだと・・・」
“マミ”隊員の話が終るや否や、“ナガイ”副隊長は、内部警戒態勢を発動するのでした。

混乱を避ける為の内部警戒態勢は、指揮官クラスにのみ緊急の連絡が、入るものでした。
「はい、全ての職員の配膳食を回収、もしくは投棄してください。ただし、犯人が今だ基地内に存在している可能性があります」
「分かりました隊長、4S隊は基地内の侵入者駆逐のため、出撃します」
会議中の“モリオ”隊長に連絡を取ると“ナガイ”副隊長は、4S隊を率いて飛び出します。
目的地は、なぞの人物を最後に確認した解析センターでした。
しかし、“マミ”隊員が目撃した人物は、そこにはいません。
4S隊は分散して、人物の確保に努めようとします。
“マミ”と“オジカ”隊員は、解析センターから離れ、4S隊区画を捜査する事にしました。
ところが、小爆発が、艦内の各所で発生し、“マミ”と“オジカ”隊員は、混乱に巻き込まれ離れ離れになってしまいます。
各所に仕掛けられた爆弾が、爆発したのです。
混乱し避難する人々をかき分け、区画の操作を続ける“マミ”隊員。
すると、見覚えのある人物が、目前に現れるのでした。
「動かないで!」
“マミ”はSSGを構えると、なぞの人物を威嚇します。
「貴方は何者なの?メセドメキアなの?」
“マミ”の質問に、謎の人物は、彼女を威嚇しようとします。
「お前達は、地球に仇名す敵対者だ。地球人の誇りを捨てて、宇宙人と共闘するなど言語道断!」
「何を言っているの?貴方達は何者なの?」
訴えかえす“マミ”隊員に、男は勝ち誇ったように話し始めるのでした。
「我々は、地球を汚す異星人とそれに協力する輩を、此処から駆逐させる為に結成された“Purity”だ」
「地球、その存在する宇宙は、人類のものであり、他の生物は我々の庇護の下に生きる事が許されるのだ!」
「庇護のない生命体は、この宇宙に必要ないのだ!」
男のあまりの暴言に、怒りの手を振るわせる“マミ”隊員。
「な、なんて事を。宇宙には多くの生命体が居て、皆が協力して、メセドメキアと戦っている時に、貴方達は・・・」
「貴方達は、自分達が、それに取って代わろうだなんて」
男は、“マミ”隊員を見つめると、言葉を繋げるのでした。
「では、メセドメキアが倒された後はどうなる?強大な異星人達は、我々を庇護してくれるのか?」
「冗談ではない!共通の敵を失えば、今度は味方同士で戦う事になるだろう。その時、この宇宙戦艦は、地球に災難を振りまく悪しき存在になるだろう」
男は、配膳車の爆弾を指差し、勝ち誇った様に叫びます。
「これは、正義の剣なのだ。この剣が、この悪しき存在に鉄槌を与えるだろう!!」
「狂っている・・・」
男の姿に狂気を感じた“マミ”は、自爆の危険を感じ取り、アルヴィスへの変身を決意しようとします。
“マミ”のイヤリングが輝きを生み出そうとした瞬間、男が意外な言葉を“マミ”隊員に投げかけるのでした。
「ほほう・・・貴様が噂の共生体か・・・」
「!」
驚き、変身動作を止める“マミ”隊員。
「どうして?と言う顔をしているな。当然、我々の新派の同志も、防衛軍にいるからな。情報には困らん」
「異星人の力を借りて地球を守護する人の話は聞いてはいたが、本当だったとは、驚いたよ」
押し黙る“マミ”
「貴様も地球人だろう。なら我々に手を貸せ。この宇宙の混乱は、地球人には関係の無い原因で始まったものだ」
「外の奴らの争いで、地球の無為の人々が倒れて逝くのを、黙って見過ごすのか?」
一瞬、“ユウコ”の家族が、牙獣との戦いで倒れてゆく光景が“マミ”の脳裏に浮かびます。
苦渋の表情を“マミ”隊員から読み取ると、男は言い放つのでした。
「この戦いは、何の為の戦いなのだ?人類に何の落ち度があって、争いに巻き込むのだ??彼らは、地球人に何を望むのだ?」
男の話を黙って聞いていた“マミ”は、拳を握り締めると、相手の顔を睨みつけます。
「もう、もう戻れない処まで、地球人類は、この戦いに深く関係しているわ。現実が目の前にあるのに、それに向き合わず、自分達だけ利益を追求し、他を見下すような貴方達に、この戦いで倒れていった人々の意思を批判させはしない!!」
「すでに貴様も異星人と言う事か・・・」
男の諦めたような呟きとともに、4S隊員達が その現場に到着します。
区画内モニターで、逸れた“マミ”隊員を探していた“オジカ”隊員が、犯人と対峙する彼女を見つけ、他の隊員達に連絡した為でした。
「大丈夫?マミ!」 「先輩!」
4S隊の出現でも、男は怯まずに、不敵な態度をとり続けます。
「おっと!お仲間の登場か」
男は、配膳車に仕掛けた時限爆弾を作動させると、次元転送して逃亡を図るのでした。
「為政者の諸君、宇宙は純潔の人類にのみ許された空間なのだ。君達が此処から消え去る事を望む・・・」
姿が消えかかる男に向かって、“オジカ”隊員が、飛び掛ろうとしますが、“マミ”隊員がそれを止めます。
「?!」
「オジカ、もう実体はないわ。それより爆弾を!」

4S隊は、爆弾の解体に着手しますが、複雑な機構に作業は進みません。
「だめだな。この区画を閉鎖して、切り離すしかないだろう」
“ナガイ”副隊長の判断で、区画閉鎖、切り離しの準備を防衛軍司令部は、決定します。
「4S隊区画か・・・作業が無駄になったな」
「くそう!あの野郎!ゆるさねぇ!!」
口々に憤怒の言葉を吐く隊員達。
その彼らが見つめるモニターに、ウルトラマンアルヴィスの姿が映ります。
アルヴィスが手に持つ物、それはあの爆弾でした。
爆弾を異空間に投げ込むアルヴィス。
「やったぜ!アルヴィス」
嬉しそうに叫ぶ“オジカ”隊員に、他の隊員達も笑顔で返します。

「良かったわね、オジカ隊員。でも何故そんなに喜んでいるの??」
“ファ”隊員に聞かれた“オジカ”隊員は、不覚にも本心を喋ってしまうのです。
「そりゃ、4S隊区画が失われたら、また引越し作業を最初からしなければいけないじゃありませんか。それもマミ先輩と・・・」
不意に悪寒が走った“オジカ”隊員が振り向くと、そこに“マミ”隊員の姿が。
「オ・ジ・カ〜〜」
彼が、どの様な状況に陥ったかは、ご想像に任せましょう。


メセドメキアとの戦い。
宇宙を悪意に染まらせない為に、宇宙に生息する生命体が手を携えた戦いに、考えが異なる集団が存在していました。
人類を宇宙の覇権者として、メセドメキアに取って代わろうとする謎の集団“Purity”。
彼らの存在は、今後の戦いへの大きな不安を、4S隊に予感させたのでした。
【第34話/完】




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