第35話

ウルトラマンジュダ
牙獣 キャマセイヌン
登 場




地球防衛軍は、国連机下の諸外国で形成された多国籍軍です。
国連偏重の組織として、地球国内での紛争には全く関与しない独立部隊でした。
最初小規模だった編制も、外宇宙騒乱が観測され危機が叫ばれるようになると、順次拡大されて行き、月基地事件で一気に拡充されたのでした。
以降、外太陽系からの脅威に対抗する先兵として、地球防衛軍は機能してゆくことになるのです。
だが、組織の肥大化と共に、迅速に事象に対応する事ができなくなり、一部の有識者から危険性を指摘されていました。
為に、科学警察機構と連携し、組織的に完成している科学特捜隊を協力編入して、事象にあたってきたのでした。
しかし、その対処方法や戦術論が問題となり、指揮系統に大きな歪みも生じていました。
そして、メセドメキア騒乱で一気に問題点が噴出してしまい、幾度も特務科学特捜隊と防衛軍の間で、問題が発生してきたのです。
防衛軍参謀本部は、ついに独自の遊撃隊“アマティ警備隊”を結成する事を決定し、組織の再編に着手したのでした。

「暫くの間、我々、特務科学特捜隊は防衛軍の新組織“アマティ警備隊”に対して教導任務をとる事になった」
4S隊隊長“モリオ”は、隊員達に訓示を行っていました。
今後は、二編制で遊撃任務にあたり、地球防衛にあたって行くのだと話していたのです。
「しかし、指揮系統に問題は、生じませんか?」
“ナガイ”副隊長の進言は、もっとな事でした。
今までも地球防衛軍と科学特捜隊との間に何度か指揮系統で問題を生じていた為、それを危惧した意見だったのです。
「うむ・・・確かに、私も管理官にその旨を伝えたのだが、どうもその意思決定は、国連上層部で決議した事項のようで、変更はありえないそうだ」
思案顔の4S隊員たち。
「当分は、教導指導と言うこともあり、我々と共同で任務に当たる事になるだろうが、あくまでも指揮権は、防衛軍直属にあると考えた方が良いだろう」
「まあ、ここで色々考えても仕方が無い。柔軟に対応してゆきたいと思う」
納得できない有益な意見を見出せない隊員たちは、“モリオ”隊長の指示に従うほかは、ありませんでした。

そこに、監理官に伴われて見慣れない制服を来た2人の人物が、4S隊司令室に入室してきます。
その姿を見た“ファ”と“マミ”の両隊員は、目を疑いました。
その場に居る隊員の1人は、“ユウコ”だったのです。
「今度、教導する事になったアマティ警備隊の隊員の二人です。現状は二人ですが、今後順次人数は、増えてゆくと思います・・・」
二人を紹介してゆく“フジ”監理官の話も聞こえていないほどの動揺を受けている“ファ”と“マミ”に向かって、“ユウコ”が、手を差し伸べてきます。
「アマティ警備隊隊員“ユウコ”です。ファ隊員、マミ隊員、ご活躍は聞いております。お会いできて光栄です」
握手してゆく“ユウコ”は、思念を二人に送り込むのでした。

≪お久しぶりね、お二人さん。暫く此処で一緒に居させてもらうわ≫

≪ユウコさん、貴方一体どういうつもりで?≫

驚く二人に“ユウコ”は、笑みを浮かべながら会釈します。

≪それは、お楽しみに。ただし私の正体を喋っては駄目よ。お喋りは、貴方達も困る事になるわよ≫

宇宙連合の一部は、今だウルトラ戦士をメセドの先兵と考えているものも多く、“マミ”達がウルトラマンだと知れ渡れば、連合の崩壊を招く結果になるでしょう。
監理官からの紹介も終って、任務に就くため解散しようとする時、“ユウコ”隊員より、監理官に申し入れがあったのです。
「監理官にお願いがあります!」
「なんでしょうか?ユウコ隊員」
訝しげに答えた監理官に向かって、“ファ”と“マミ”にとって驚くべき提案をしてきたのです。
「私をファ、マミ両隊員の下で教導して頂きたいと思います。お願いします」
「彼女らを?」
監理官も驚いています。
「ファ、マミ両隊員は、4S隊での活動が他の隊員達と比べて短く、教導するには他の隊員の方が良くなくって?」
しかし、“ユウコ”隊員は、二人の過去の事件での解決率と重要任務での達成率を挙げて、了承を得ようとします。
「彼女らに教導していただければ、私にとっても防衛軍にとっても大変有意義であると信じています」
彼女の熱意に負けて、監理官はその申し出を受けるのでした。

任務に戻る他の4S隊隊員達に気づかれぬように、“ユウコ”隊員に近づく、“ファ”と“マミ”隊員。
「ユウコさん、いえ、隊員。何故貴方がここに居るの?」
「何が目的なの?破壊工作なら私達が、必ず阻止します!」
二人の意気込みに、思わず苦笑してしまう“ユウコ”隊員。
「二人とも結論は急がないで。私も潜入してきた訳ではないの。貴方達、防衛軍に呼ばれたから来てあげたの」
「えっ?防衛軍に呼ばれたって??」
互いに顔を見合わせる“ファ”と“マミ”隊員。
「そう、貴方達の仲間にね。そう言う事」
「・・・・・」
言葉も無い二人に笑みを浮かべ、“ユウコ”隊員は見つめ返します。
「私が何をするつもりなのか?私が何故呼ばれたのか?そして敵である防衛軍に協力しているのか?」
「聞きたい事は沢山あると思うけど、一つも答える気は無いの。でも、いずれ貴方達にも分かるわ」
“ユウコ”隊員は、そう言い残すと二人を置いて、基地内へ任務に戻るのでした。

サブリナスベース内に鳴り響く、警報音。
牙獣襲来の報が、基地内部に繰り返し放送されます。
「牙獣警報!地球圏へ、メセドメキア星より巨大生命体の離翔を確認しました。到達時刻は・・・・」
4S隊も地球防衛軍と共に牙獣への攻撃に出撃してゆきます。
「まずは、防衛軍のミサイル艇艦隊が迎撃を開始する。その後4S隊が攻撃を開始、アマティ隊は、補佐を要請する」
「了解」 「アマティ隊、了解」
作戦通り、牙獣が迫ると防衛軍の攻撃が開始されます。
≪ふふふ、さて、ジュダ。予定通り頼んだわよ≫
アマティの専用攻撃艇で待機する“ユウコ”隊員は、その時を待っていました。

牙獣は防衛軍の迎撃を振り切ると、難なく地球圏に到達し、地上へ降り立ってしまいます。
防衛軍施設の破壊活動を開始する牙獣に、4S隊、アマティ隊の攻撃が開始されました。
しかし、近くに民間施設が在る為に、4S隊は攻撃を躊躇します。
「隊長!これ以上の攻撃は、危険すぎます。まだ住民や職員の退避が終っていないようです」
牙獣の足元を狙って攻撃を仕掛け、避難の時間を稼ごうとする4S隊でしたが、牙獣の歩みを止めることはできません。
「アマティ隊、これより牙獣阻止の為に重粒子爆弾による攻撃を開始します」
突然、“ユウコ”隊員の声が4S隊の無線機より流れます。
「なに?許可はしていないぞ。ユウコ隊員、まだ避難が完了していない。待て!!」
“モリオ”隊長の言にも拘らず、アマティ隊は、牙獣に対して重粒子爆弾を投下するのでした。
爆発する重粒子爆弾。
それは粒子の重い放射線に制限を掛けないで、対象物の細胞に叩きつけて、細胞組織の破壊を促す、究極の爆弾でした。
牙獣は焼き尽くされ、分解しました。
だが、指向性が無いため、全方位に放射された重粒子線は、有効範囲にいた人々も巻き添えにしたのです。
「な・なんてことを・・・」 あまりの惨劇に4S隊隊員に言葉がありませんでした。
「任務完了。アマティ隊は、これより帰途につきます」
悠々と引き上げるアマティ隊。
4S隊は、その姿を見送る事しかできなかったのです。

サブリナスベースへ帰還した4S隊は、司令室に急いで戻ります。
そこには、“フジ”監理官とアマティ隊の二人がいたのです。
「お前ら!!なんて事を!」
いきなり“オジカ”隊員が“ユウコ”隊員に殴りかかろうとします。
しかし横から出てきたアマティ隊員“ジン”に腕を掴まれ、捻り挙げられてしまいます。
身動きの取れない“オジカ”隊員の姿に4S隊員達が詰め寄ろうとしますが、“ユウコ”隊員が“ジン”隊員に声をかけるのです。
「放してあげなさい、ジン」
突き飛ばすように“オジカ”隊員を放すと、何も無かったかのように“ユウコ”隊員の傍に立つ“ジン”隊員。
「どういう事か説明してもらおう。あの攻撃で、住民を含め多数の死傷者がでた。何故だ?何故攻撃を行った?」
“モリオ”隊長の詰問に、“ユウコ”隊員は、笑顔で答えるのでした。
「申し訳ありませんが、貴方の命令より防衛軍参謀本部の命令が優先されました。詳細につきましては、監理官に報告してあります」
「我々アマティ隊に、選択の余地はありませんでした。抗議は直接参謀本部にお願い致します」
余りの堂々とした態度に、“モリオ”隊長も驚きを隠せません。
横目で監理官を見ると、首を静かに振る姿が映ります。
すでに参謀本部に抗議をしたが、受けいられなかったとの意思表示が、表情から見受けられたのです。
アマティ隊の二人は、敬礼を返すと4S隊員達を気にせずに、部屋から退出してゆくのでした。
「なんだ、あの態度は?」 「冷血女ね」 「くそう、優男の雰囲気なのに馬鹿力しやがって!」 口々に罵る4S隊員たち。
「これは今後問題になりそうですねぇ。参謀本部の命令と言うのは事実なのでしょうか?」
“ナガイ”副隊長の質問に“フジ”監理官は、諦めたような口ぶりで答えます。
「ええ、確認したわ。施設の保護を優先せよって命令をしたらしいわ。何を考えているのかしら、参謀本部は・・・」
アマティ警備隊と4S隊に早くも亀裂が入ってしまいました。
そして参謀本部と科学警察機構との間にも不信感が、生まれはじめていたのです。
「施設は、重要なものだったのですか?」
“マミ”隊員の質問は、もっともなものでした。重要であったからこそ人命を軽視したのだと。
しかし答えは、違っていました。
「いいえ、単なる訓練施設よ。確かに訓練施設は大事だけど、訓練している人材の方が優先されるべきよね」
監理官の答えに、“ファ”“マミ”の両隊員は、同じ結論に達したのです。
あの“ユウコ”が、単に命令に従うはずが無い。何か裏事情があるはずだと・・・。

一方、4S隊との一悶着の後、自室に戻った“ユウコ”と“ジン”隊員。
「全く、正義感の塊のような集団ね。それも自意識過剰のね」
≪そう、その彼らの為に、彼らの正義の為に、私の家族は失われてしまった・・・≫
思わず家族の事を思い出し、握り締めた手で持っていたコップを割ってしまう“ユウコ”隊員。
その彼女にハンカチを手渡す“ジン”隊員に、笑顔で話しかけるのです。
「ありがとう、ジン」
軽く会釈を返す彼に、彼女はアイテムを渡すのでした。
「これは貴方の素体を呼び出すもの。さっきの戦いで牙獣から放出された素子が、充電されているわ」
「貴方には、後でお願いする事になるわ。それまで休んでいて」
「分かりました」
“ジン”との会話を終えると、彼女は“ジュダ”と思念会話を行います。

≪ユウコか?上手くいったようだな≫

≪ええ、そちらも上手くメセドメキアを説き伏せたようね≫

“ユウコ”隊員の口元に笑みが浮かびます。

≪ディスクの効果は、あったみたいね。防衛軍は、主導権を握りたいみたいね。メセドメキアとの戦闘より目の前の“欲”が大事みたい≫

≪牙獣に取り込んでおいた素体因子は、“ユウコ”が放った重粒子放射線で、地球に拡散した≫

≪これで、多くの因子が人類に投射されたはず。まだまだ足りないが、その中から有望な共生体を見つけ出すのが・・・≫

≪私の仕事でしょう≫

≪流石だ≫

飲み込みの良い“ユウコ”の反応に、“ジュダ”も満足げな反応を返します。

≪彼は?≫

≪ジン? ええ、良く手伝ってくれるわ。彼も私と同じ境遇だから・・・≫

≪それに、彼はもう手に入れたわ。ウルトラの戦士の力を≫

≪ほう。それは楽しみだな。是非アルヴィスとの戦いを楽しみにしよう≫

≪ええ、私もあの二人が、屈辱に這い回る姿を早く見たいから≫

ジュダとの会話を終えた“ユウコ”は、外が見える窓に近づくと青く輝く地球を見据えます。
そして、そこに展開する宇宙連合の艦船を。
「待ってなさい。次は貴方達、宇宙連合に楔を打ち込んであげるわ」
呟く様にしゃべる言葉は、彼らへの呪詛のように聞こえたのでした。


強制的に人類とウルトラマンを共生させる作戦を展開する、“ジュダ”と“ユウコ”達。
そして、策略から防衛軍は図らずも彼らを助けてしまい、特務科学特捜隊との関係が悪化してしまいました。
次の彼らの目的は?
果たして“マミ”と“ファ”は、アルヴィスの力を借りて、彼らの計画を阻止する事ができるのか?
事態は昏迷を深めるのでした。
【第35話/完】




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