第37話

リュディア星人・オギニオン星人・テーベ星人
牙獣 ウッカバーレン
超人戦士 アレティア
メセドメキア
登 場




サブリナス基地で、銀河の星々を見つめる“ファ”隊員。
誰もいない観測室で、思いにふける彼女の脳裏には、故郷リュディアの事が、思い出されていました。

リュディアは、それほど多くの異星系と交流はありませんでしたが、気候も穏やかで資源もある為、相応に発展していました。
諸侯は、都市、人民を治め、王家に忠誠を誓うと言う王制をひいてはいましたが、民主的な政治が配慮され、平和に暮らしていたのです。
その王族には、一人の娘がいました。
彼女の名前は“ファ”。
誓いの戦士にして、リュディア軍の指揮官としての手腕は、誰もが認める事実でした。
当然、メセドメキアのリュディア侵略戦争が始まった時にも、彼女が指揮を執り、防戦を繰り返していたのです。
しかし、通常兵器では対抗できず、多少なりにも牙獣に効果の有る“反応兵器”は遣い辛く、徐々に住むべき場所を失われて行ったのでした。
ついにメセドメキアの脅威が、首都ディアに迫った時、誰もが彼らの軍門に降る事を信じて疑わなかったのです。

“ファ”も同じでした。
眼下に広がる牙獣と防衛軍の戦闘の為に燃え盛る街並みを見つめ、その場で逃げ惑う民衆に、心を痛めていたのです。
自分の無力感に。
自分の成すべき責任に。

作戦司令室で”リュンジィ“は、そんな”ファ“を見て、言葉を掛けます。
「ファ・・・我々も脱出の準備を」
基地の防衛網も倒壊し、牙獣の危機が、この司令部にも迫っていたのです。
「いいえ、私は此処に残ります。最後まで民衆の盾となります」
彼女の決意も悲しみも理解していた“リュンジィ”でしたが、心を鬼にして諭すのでした。
「貴方を失えば、リュディアは誓いの戦士を失い、求心力を失います。それはメセドメキアを利する事になります」
「我々は、まだ戦う力を失ったわけではありません。お願いします、戦士ファ!」
諭された“ファ”は“リュンジィ”を見つめます。
「分かりました。一時の激情で貴方に迷惑を掛けました。申し訳なく思います」
“リュンジィ”は微笑むと、“ファ”を連れ、脱出の指揮を執るのでした。

燃え盛る基地から飛び立つ2機の宇宙艇。
しかし離陸から、すぐに牙獣が襲い掛かってきたのです。
攻撃を避けながら逃亡を図る司令機。
しかし、ついには被弾し、燃えながら山中に墜落してゆきます。
「ファ!!」
生き残ったもう一つの宇宙艇に座上していた“リュンジィ”の叫びが、機内に響くのでした。

撃墜された司令機は、操縦者の必死の操縦で、最後の瞬間に安定を取り戻し、軟着陸に成功します。
しかし、機関部を撃ちぬかれていたため、着陸と同時に機体は大爆発を起こすのでした。
“ファ”も着陸の衝撃で席を飛ばされたため、爆発の影響を直接受ける事は避けられたのです。
だが、即死ではないだけでした。体に大きな傷を受けた彼女は、死に瀕していたのです。
生存者は、彼女だけでした。
“リュディア”機が無事に牙獣の手から脱出できたとしても、救助に向かうまでに、彼女の命の灯火は消えてしまうでしょう。
そこに突然現れる光の玉。
それは、瀕死の“ファ”に近づくと、彼女の体に吸い込まれていくのです。

空虚の世界に眠るように浮かぶ“ファ”
その彼女に、誰かが話しかけてきます。

≪リュンジィの誓いの戦士よ・・私の名は“アルヴィス”。貴方と同じメセドメキアと戦う戦士だ≫

〈私は、どうなっているの?〉

≪君は、牙獣の攻撃を受け、瀕死の状態だ。だが私が共生する事で命を永らえている≫

〈では、私は死ぬのですね〉

彼女の目から溢れる涙は、志半ばで命を失う彼女の悲しみを表していました。

≪だから君に頼みたい事がある≫

意外な申し出に“ファ”は、相手を見返します。

≪私達は、君達の姿と意思を借りなければ、メセドメキアと戦う事ができない。又、共生を望まない相手とは共存できないのだ≫

〈つまり、貴方は私の体を借り、私は貴方の力を利用できるのですね〉

〈私は、このままでは命を失う事しかできません。貴方が、私達リュディアの人々を救ってくれるなら、どうぞお使い下さい〉

意を決して、この新たな未知の生命体を信じる“ファ”は、彼の申し出を受けるのです。

≪誓いの戦士よ。貴方の希望は、私の希望となった。貴方の戦いは、私の戦いでもある。互いの信頼が、滞るまで、一緒に戦おう≫

“ファ”の体が光に包まれると、傷は回復し、意識も取り戻すのでした。
「これも、貴方達の力・・・」
驚き、自分の姿を見つめる“ファ”の手のひらに“イヤリング”が現れます。

≪私の力が必要な時、何時でもこれを翳し、私の名前を呼びなさい≫

「呼ぶと、どうなるのです?」

≪大いなる力が、メセドメキアと戦う力を君に与えられるだろう≫

彼女は、アルヴィスの言葉を信じました。
いえ、信じるしか無かったと言うのが事実でしょう。
しかし墜落現場から脱出し、逃げる避難民と合流した彼女は、襲い掛かってきた牙獣に対して、アルヴィスの力を初めて使ったのでした。
体が光に包まれると、そこには“ファ”でなく、巨人の姿が。
それが、“ファ”と“アルヴィス”のリュディアでの戦いの始まりだったのです。

それからは、アルヴィスの活躍で牙獣を粉砕し続けたリュディア軍は勢力を盛り返し、メセドメキアの支配地域を徐々に奪還していったのです。
誓いの戦士の召喚という形で、“アルヴィス”を受け入れたリュディアの民衆は、熱狂します。
そして、その誓いの戦士“ファ”の人気は、止まる事を知らなかったのです。
そんな戦いが3年程続いたある日に、事件は起こったのでした。
メセドメキアが、リュディアから駆逐される日も近いと思われたある時、ロギュテルの衛兵隊が、防衛軍の司令室に乱入し、“ファ”達を拘束してしまいます。
諸侯の一部が、“ファ”への民衆の賞賛を妬み、特に召喚の術を得た“ファ”を危険視した為でした。
事実上の謀反だったのです。
“ファ”や“リュンジィ”達は、拘束後に諸侯の陰謀である事を知り、新派の人々と共に脱出して、メセドメキアと叛乱諸侯と両面で、苦しい戦いを強いられたのでした。
その戦いの中で、驚愕の事実が判明します。
叛乱諸侯は、メセドメキアに操られ、“ファ”達を放逐したのでした。
自分達の利益のために、星を売り、同胞を殺戮する。
彼女にとって信じられない事でしたが、諸侯達は、次の罠をしかけるのです。
“ファ”は、“誓いの戦士”でなく、“悪魔の使い手”だと、民衆に広めたのでした。
牙獣の攻撃が、リュディアの人々とアルヴィスの活躍で阻止されていた頃、偶にアルヴィスに似た巨人が現れる事がありました。
人々は、アルヴィスとの関係を疑いましたが、“誓いの戦士である”ファ“”を信じていた為、疑問を口にする事はありませんでした。
処が、メセドメキアは“ファ”達を孤立させる為に、先の噂を流したのでした。
それからは、頻回に牙獣と同じ様に出現する巨人達の姿が、リュディア攻撃にみられたのです。
民衆は、徐々にその噂を信じてゆきました。
そして“ファ”達を敵視し始めたのです。
それは、牙獣の被害を受け続ける民衆の怒りを、彼女達に向けやすかっただけなのでしょう。
しかし民衆の敵意は、広がっていったのです。

その後、彼らが各地を転戦しながらメセドメキアの牙獣と巨人と戦い、諸侯からの追撃から逃げる負担は、想像を絶しました。
徐々に戦力を失い、仲間が倒れていったのです。
その頃からでした。
“ファ”がアルヴィスに変身後に体調の不良を訴えるようになったのです。

「ファ!大丈夫か?」
唯一の理解者“リュンジィ”も心配そうに、変身後の“ファ”に声を掛ける事が多くなっていました。
「ええ・・・大丈夫よ。でも・・・少し休ませて・・・」
“リュンジィ”の腕の中で死んだように倒れこみ眠る“ファ”。
アルヴィスとの共生に、重大な異変が起こりつつありました。

ついに“リュンジィ”達は、リュディアからの撤退を決意します。
リュディアは、その殆どをメセドメキアとそれを信望する諸侯と民衆に占拠されていました。
このままでは、唯一の抵抗組織である彼らも、捕らえられ、全ての希望が失われてしまうと考えられたからです。
“ファ”達を信じる民衆から、“テーベ”への脱出の手配を受け、隠してあった宇宙船で脱出を敢行する彼等。
その前に立塞がるメセドメキアに支配された“リュディア”軍。
牙獣を先頭に、最後の抵抗の芽を摘み取ろうと、猛烈な攻撃が繰り返されます。
脱出する宇宙船を護衛するために“リュンジィ”は、戦闘艇で発進します。
秘密基地を飛び出してゆく、数隻の脱出船と戦闘艇群。
直ぐにも、待ち構えていたリュディア軍と交戦状態に陥ります。
撃墜される双方の艦艇。
しかし、数に勝るリュディア軍が、抵抗軍を追い詰めてゆきます。
次々撃破される抵抗軍戦闘艇。
ついには脱出艇も撃墜されてしまいます。

「くそう!これ以上はお前達の好き勝手にはさせない!」
“リュンジィ”は、叫びながら戦闘艇を操作して、“ファ”の座上する宇宙艇を狙い撃とうとするリュディア戦闘艇を阻止しようとします。
“リュンジィ”の戦闘艇は、リュディアの戦闘機と交叉して、両機はバランスを崩し、地表へと墜落してゆきます。
「リュンジィ!!」
それを目撃した“ファ”から、悲鳴にも似た叫びが!
脱出の前日の夜、“リュンジィ”からアルヴィスを召喚しないように忠告されていた“ファ”でしたが、彼の死は、約束を忘れさせるには十分だったのです。
「アルヴィス!」
変身した“ファ”は、脱出艇を飛び出すと、周辺の敵軍を撃破してゆきます。
「何故!何故変ってしまったの?私の信じていたリュディアの人々は何処に行ってしまったの?」
「これが、私の戦いの結末なの?」
振り向きざまにアルヴィスの手刀が、リュディアの戦闘艦を一撃で吹き飛ばします。
「これが、私達が望んだ未来だと言うの・・・」
突然、力が失われ膝をつくアルヴィス。
“ファ”の意識も突然混濁し始めます。

≪ファ!聞こえるか?最後に力を解放して此処から君と船を脱出させる≫

アルヴィスの声に、無意識に反応する“ファ”。
アルヴィスは、立ち上がり両手を翳すと、光の柱を作り出します。
一瞬輝きを増した光の柱は、アルヴィスを中心に360°広がってゆきます。
その光に飲み込まれた敵は、牙獣も戦闘艇も跡形も無く消え去ってしまいます。
究極の技:指向性の光玉エネルギー兵器でした。
光玉から上手く逃げる事ができた脱出艇は、リュディアの防衛圏を抜ける事に成功します。

テーベに向かう脱出艇に戻った“ファ”
仲間達に介護され、艇内の病室で寝かされている彼女の意識で、アルヴィスが語りかけてきます。

≪ファ、君の力になれなかった事を詫びたい≫

〈いいえ、貴方は十分戦ってくれたわ〉
〈それは私達リュディアの人々が望んだ為に起こった悲劇だった。貴方のせいではないわ〉

≪それに、君の体が心配だ。大きな負担をかけていたようだ≫

〈ええ、知っていたわ。でも貴方の力を失いたくなかった・・・皆の為に・・・〉

≪これ以上の共生状態は、君を失う事になりかねない。そんな事は避けたい≫

〈もう、一緒には戦えない?リュディアを、私達を見捨てると言うの?〉

意識体のアルヴィスは“ファ”に近づいてきます。

≪そうではない。が、君達の中にファと変われる存在がいない。そして君達のような生命体がいないと私は戦えない≫

〈でも、なにか方法が・・・〉

“ファ”は、“リュンジィ”を失い、故郷を失い、仲間の多くを失っていました。
最後の拠り所のアルヴィスを失う事は、絶望を意味していたのです。

≪リュディアを再び取り戻す為に君達はテーベに向かっている。今は再起を図る事を考える事だ≫
≪そして君の体を回復する事が重要だ≫

悲しむような目で“ファ”はアルヴィスを見つめます。

〈そうすれば、もう一度助けてくれる?〉

≪ああ、約束しよう。その時にもう一度再会しよう≫

“ファ”とアルヴィスは、お互いを見据え、頷き合います。
共生を断ち切り、“ファ”と分離するアルヴィス。
その瞬間、ベッド上で意識を取り戻す“ファ”。その姿をみた仲間達は、喜び合います。
しかし、“ファ”の思いはアルヴィスにありました。

〈またきっと逢えるわね、ウルトラマンアルヴィス・・・〉

“ファ”は、新たな決意を胸に、新天地に向かうのでした。



サブリナス基地の展望室で佇む“ファ”隊員。

〈でも、状況はそんなに甘くなかった〉

テーベは、すでにメセドメキアに支配されていました。
そこで奴隷としてテーベ人に連行されてきたオギニオン人達と、共同で抵抗組織を立ち上げる“ファ”達リュディアの人々。
しかし、メセドメキアの前に、力を失ってゆく抵抗軍。
自分の力の不甲斐無さと、状況への苛立ちに、何かを敵視しなくてはいられなくなった“ファ”は、徐々にアルヴィスを怨むようになります。
そう、怒りをぶつける対象として・・・。
それが理不尽な行為だと知っていながら・・・。

〈そう、私は、あの時のリュディアの人々と同じ状態だった。何の根拠も無く、自分自身を責めずに、逃げていただけだった〉
〈今の地球は、私達の星リュディアと同じ道を歩もうとしている〉
〈私は、二度と同じ過ちを繰り返さない。同じ過ちを、この地の人達に歩ませたくはないから・・・〉

展望室の扉が開き、“マミ”隊員と“ムロイ”隊員が入ってきます。
「ファ、此処に居たんだ・・探したよ。作戦会議が始まる、一緒にいかないか?」
“ムロイ”隊員の誘いに頷く“ファ”。
「あら?私は、お邪魔かしら?」
おどけて二人をからかう“マミ”隊員に“ファ”は笑って答えるのです。
「一緒に行きましょう、マミ」
〈そう。私は彼らが大好きだから。彼らを悲しませる全てを許さない〉
3人は展望室を出てゆきます。
その展望には、無数の輝く星が、煌いていました。
【第37話/完】




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