第38話

牙獣 ヒジラウルス
登 場




地球圏に浮かぶ、防衛の要“サブリナス基地”
太陽系に配置される監視衛星と宇宙基地のネットワークの中心として、太陽を挟んで反対側に位置する“メセドメキア”本星を見張るこの基地の中には、3000名もの人員が活動しています。
そんな多くの人々が生活する空間では、日常会話の中から多くの重要な情報も漏れ出す事があるのです。
そして、これもその一つでした。

「なあ、知ってるか?オジカ」
突然、食事中の“オジカ”隊員に話しかける同僚の“ヒジリ”隊員。
「なんの事だい?最近はメセドメキアの活動も不活発で、こっちは腕が鈍りそうなんだ。面白い話なら聞きたいな」
と、軽口を叩く彼に、“ヒジリ”隊員は、ニヤリと笑うと、声を潜めて話し始めるのでした。
「アジア地区、ほら、例の富士山の近くで大規模な工事が始まっているらしい・・・」
「らしいって、どういう事だい?確認しているんだろう?」
大盛りのご飯を頬張りながら問い返す“オジカ”隊員に向かって、神妙な顔の“ヒジリ”隊員。
「ああ。そりゃこちらも情報分析局のエキスパートさ。調べてみたよ」
「で?」
核心部分を隠して話をする癖を知り尽くしている“オジカ”隊員は、気だるそうに答えを誘います。
「少しは興味を持てよ。お前と話をしていても、盛り上がらないな・・・」
呆れた“ヒジリ”隊員は、調査した内容を“オジカ”隊員に話しました。
それは、驚くべき内容でした。
「はぁ?地球防衛軍が、新たな軍事拠点を地球に作っている?それも秘密裏に?何故さ?」
大きな声で驚きの疑問を発した“オジカ”隊員を制した“ヒジリ”隊員は、話を続けます。
「おいおい、頼むぜ、オジカ。まだ噂の域をでていないが、極秘情報かも知れないんだぞ・・・」
神妙な面持ちの“ヒジリ”隊員を見て、納得する“オジカ”隊員。
「で、証拠は?」
「そう言うと思ったので、ほれ、これにちゃんと用意してある」
差し出されたのは、1枚のCD。
「流石、用意がいいなぁ。で、この中に?」
「ああ、調査した内容がすべて書き込んである。後で、暇なときにでも見ておいてくれ」
「ふ〜ん・・・」
興味が無さそうに、懐にCDをしまう“オジカ”隊員。
「それと、オジカ・・・前に話した例の・・・」
恥ずかしそうに彼を見る“ヒジリ”隊員の姿に、察するところのある“オジカ”隊員。
「ああ、お前まだ諦めてないの?止めとけ止めとけ。あのじゃじゃ馬、お前じゃ相手にならないぞ」
「おい、オジカ。彼女の事をそんな風に言うのは、いくら親友でも許さん!!」
彼のあまりの剣幕に驚く“オジカ”隊員は、言葉を濁しながら会話を続けます。
「いや・・・すまん。まだチャンスが無くてな・・・、先輩には伝えてないんだよ(しかしあのじゃじゃ馬のどこに惚れたんだか・・・??)」
その二人の後ろから、突然声が掛けられます。
「オジカ!此処で昼ごはん?隣は友達?」
後ろを振り返ると、“マミ”隊員と“リョウコ”隊員が連れ添って立っていました。
「うわ!」
「何、驚いているのよ?オジカ?さては、悪口でも言ってたな〜!!」
内心の動揺を隠しながら、“ヒジリ”隊員を指差し、紹介する“オジカ”隊員
「いや〜冗談がきついなぁ。先輩、紹介します、“ヒジリ・アキホ”隊員で、自分の同期です」
「ヒジリです」
憧れの4S隊“マミ”隊員の手を眩しそうに握り返す“ヒジリ”隊員の姿に、“オジカ”隊員の疑問は、益々深まるのでした。

それから数日後、4S隊司令室で任務についている“オジカ”隊員に、驚くべき事が伝わります。
親友の“ヒジリ”隊員が、事故で死亡したとの連絡でした。
情報分析室の機器の整備中に配電盤が落下して、彼を直撃したのです。
必死の救命の甲斐もなく、メディカルセンターにて、死亡を確認されたのでした。
天涯孤独の“ヒジリ”隊員には、遺体の引き取り手もなく、遺品を整理中に“オジカ”隊員の事を知った情報分析局の同僚が知らせてきたのでした。
あわてて“ヒジリ”の元に走る“オジカ”隊員。
しかし、遺骸を乗せた連絡船は、地球へ出発してしまった後だったのです。
展望室で、一人悔やむ“オジカ”隊員。
「くそう!なんで前線にいる俺より先に死ぬんだよ!それにまだ、マミ先輩にきちんとお前の気持ちを伝えてないんだぞ!!」
慟哭する“オジカ”隊員に近づく“マミ”隊員。
「オジカ・・・気を落とさないで・・・月並みな事しか言えない私だけど・・・」
“オジカ”隊員の肩に手を優しく置き、慰める“マミ”隊員。
その優しさが、心に染み入る“オジカ”隊員でした。
「でも、突然すぎます、先輩!いくら事故でも突然すぎると思いませんか?!」
その言葉に、疑問を投げかける“マミ”隊員。
「それってどういう事?事故ではないって・・・?」
「ええ、奴は、何か噂の検証を行っていたようでした。防衛軍の秘密とかなんとか・・・」
「秘密?」
“オジカ”隊員は、その時思い出しました。彼から渡されたディスクを自室に放置したままなのを・・・。

“マミ”隊員をその場に残して展望室を飛び出すと、自室でディスクを探す“オジカ”隊員。
「あ、あった!!」
直ぐにも末端に導入して再生させようとしますが、パスワードを要求されてしまいます。
そこに後を追いかけてきた“マミ”隊員も席を同じくするのでした。
「これは?」“マミ”隊員の問いかけに“オジカ”隊員は、「ヒジリの残したCDです」と答えるのです。
「パスワードかぁ・・・」
「彼の両親の名前とか、食べ物とか・・・」“マミ”隊員の連想に“オジカ”隊員は、あるパスワードが、閃めくのでした。

【  ショウ・マミ   】

「あたしの名前じゃない??」
驚く“マミ”隊員を制して、画面を見つめる“オジカ”隊員の目に、パスワードを受け入れた末端から情報が溢れ出すのが認められました。
「これは・・・」
「地球防衛軍の秘密基地建設計画書の概略・・・なに?対地球外生命体対策要綱って??惑星間弾道弾R−1システム・・・?これって・・・」

CDの中身は、地球防衛軍の極秘計画の詳細が書き込まれていました。
地球防衛軍TDFの極秘基地は、アジア地区の地下大要塞として建設が始められており、その装備は、地球防衛と言うより、対地球外生命体対策とも言うべき仕様になっていたのです。
メセドメキアに対して共闘している現在、このCDの内容は、相反する事項でしかありませんでした。
そう、地球防衛軍は、何らかの事実を隠して、メセドメキアとの戦いに挑んでいると・・・

「残念だけど、オジカ・・彼は、事故で死んだんじゃないわね。何か裏がありそう・・・」
「先輩・・・」
“マミ”隊員は、“オジカ”隊員を見据えると、力強く言います。
「オジカ。これはヒジリ隊員の残したダイイングメッセージよ。真実を知る必要があるわ。あんた一緒に・・・」
最後まで言わずとも“オジカ”隊員に異論が、あるはずがありません。
「当然です、先輩。ご一緒させて頂きます!!」

二人は、任務の合間に、CDの計画書にあった書類番号や会議録の表記から、その裏づけを取ろうと帆走します。
それにより、地球防衛軍は、極秘に何かの開発と研究、そして防衛計画の見直しを行っている様子が伺えました。
しかし、ある程度の処まで来ると、極秘の文字と共に強力なセキュリティーに阻まれるのでした。
「これ以上は、私達の力では無理みたいね」
「ですね・・・セキュリティーを破るには、誰か他の人の協力が必要ですねぇ」
お互いの顔を見合わせると同時にその人物の名前をあげる二人。
「ムロイ隊員!!」
“オジカ”隊員の兄貴分で、“マミ”隊員にも優しい彼の名前がでたのは当然だったでしょう。
そして、彼は分析能力に秀でています。
急いで、彼の元に走り、事情を話す二人。
しかし、“ムロイ”隊員は、別な意見を述べ、二人を諭します。
「うん、事情は分かったけど、あんまり感心しないなぁ。地球防衛軍の電脳に侵入するんだろう?かなり危険だぞ」
「それに、直ぐにアクセス解析されて、此処が突き止められてしまうよ」
“ムロイ”隊員の話しに、落胆を隠せない二人。
「でも、こいつは科学警察機構と防衛軍との協定違反の証拠になるね。フジ監理官に相談してみたら?」
「上層部から突けば、何らかの反応があるので、それを足がかりに直接対峙した方が簡単だね」
「そうか!その手があったわね。いくよ、オジカ!」
ムロイ隊員の自室を飛び出し、管理官室に向う二人。
その前に、“ユウコ”、“ジン”の両隊員が、立ちはだかります。

「何なの?あんた達。私達は忙しいの。そこをどいて頂戴!」
遮る二人を避けて通ろうとする“マミ”隊員を食い止めようと、“ジン”隊員が仕掛けます。
鋭いキックを持ち前の運動神経でかわす“マミ”隊員。
「悪いけど、そのCDを渡して頂戴。貴方達とは、今は戦いたくないの」
“ユウコ”隊員の言葉に“オジカ”隊員が反応します。
「お前らか?!ヒジリを殺したのは!!」
殴りかかる“オジカ”隊員をかわし、投げ飛ばす“ユウコ”隊員。
「僕・・勘違いは良くないわ。君の親友の死と我々は、関係ない」
「そんな事信じられるか!!」
意気込む“オジカ”隊員を制し、“ユウコ”隊員に疑問を投げかける“マミ”隊員。
「貴方達は、このCDの中身を知っているのかしら?知っているからこそ、取り返しに来たのでは?」
「私達には何も知らされていないわ。でも警務隊からの要請なの“CDを取り返せ”って」
にやりと“ユウコ”隊員は、“マミ”隊員に向かって微笑みます。
「貴方達と警務隊には、因縁があるみたいだから・・・」
彼女の言葉に思い当たる事のある“マミ”隊員でした。
「それに直接手を下したとすれば、警務隊の諜報部でしょう。彼らは手段を選ばないから」
諜報部は、対異星人への秘密活動部隊として編成され、その戦闘能力は4S隊と同等と評されている組織でした。
その任務は、諜報、破壊工作、暗殺等、地球防衛でも暗部に属する部隊で、公式には存在しない事になっていたのです。
「くそう!CDの所在が明確でなかったから、ヒジリの口を封じたんだな!!」
「なんて事を・・・」
対峙する4人に突然、基地内の警報が鳴り響きます。
≪緊急警報。地球アジア地区にメセドメキア反応。アマティ隊、4S隊は、出撃準備を要請します。緊急警報・・・≫
地球上に突然、牙獣が出現したのでした。
出現位置は、なんとCDに記録してあったアジア地区の防衛軍秘密基地の近辺だったのです。
“マミ”隊員の通信機が鳴り、“ナガイ”副隊長から檄が飛びます。
「マミ、オジカ、どこにいる?出撃だ!格納庫まで急げ!」
その様子を見届けると“ユウコ”隊員は、“マミ”隊員に告げるのでした。
「一時休戦のようね。続きは帰ってから・・・」
その言葉を無視するかのように走り去ってゆく二人の姿を、“ユウコ”隊員は見つめるのでした。

サブリナス基地を出撃した4S隊は、牙獣の迎撃に向います。
牙獣は地上施設を破壊しつつ、その被害を拡大していました。
地球防衛軍も多数の地上軍で防衛に努めていましたが、その戦力では十分な効果が得られていなかったのです。
「しかし、何故こんな山の中に、防衛軍の地上戦力が多数配備されているのだ?」
“ナガイ”副隊長の言は、4S隊の皆の考えでした。
そう、事実を知っている3人を除いては・・・・。

4S隊はJVと戦闘艇SSSで遊撃作戦を執ることにし、3機による撹乱作戦を行います。
牙獣は、その攻撃に翻弄され、地上施設から徐々に離されていきます。
しかし、一瞬の隙に牙獣のエネルギー波が、“マミ”と“オジカ”隊員が搭乗するJVに命中するのです。
「マミ!!オジカ!!」
“モリオ”隊長の叫びも空しく、JVは、地上に向かって墜落してゆきます。
しかし、そのJVが突然光に包まれると、そこに現れたのはウルトラマンアルヴィスでした。
その手にはJVが抱きかかえられ、地上にゆっくりと下ろされます。
牙獣と対峙するアルヴィス。
攻撃をかわしながら、徐々に痛撃を浴びせかけてゆく、ウルトラマンアルヴィス。
そんな最中に突然響き渡る“オジカ”隊員の叫びが!!

「アルヴィス!止めてくれ!!そいつは・・・そいつは・・・」

がっくりと膝を突く“オジカ”隊員。
攻撃を躊躇するウルトラマンアルヴィス。

「そいつは・・・ヒジリだ・・・」


CDに隠された地球防衛軍の秘密は、外宇宙に対する方針の転換を示すものなのか?
牙獣の隠された秘密とは?
混沌とした状況は、謎を呼び、その渦の中にすべての人々を飲み込んでゆきます。
まだ宴は、始まったばかりでした。
【第38話/完】




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