第42話

イムチェリー星人
牙獣 パルナス
登 場




被災し大きな被害を受けた地球の復興は、宇宙連合の協力もあり徐々に進んでいました。
しかし、地球人類の生存を脅かす問題が多発していたのです。
それは、食糧問題を含む、環境の悪化でした。
地球規模の災害は、地球環境を変化させ、人類の生存に適さないような状況に陥いらせていました。
科学者の意見では、環境補正装置の設置を鑑み、2年の猶予期間が必要との事でした。
つまり2年間は、人類の一部を地球外へ退避させ、地球環境の整備に努めるという考えだったのです。
地球防衛軍は、シェルター計画の骨子に従い、人類の宇宙都市移住を進めるのでした。

サブリナス諸島の宇宙港から次々飛び立つ、宇宙連合軍の輸送艇群。
その護衛と誘導の任務に4S隊も参加していました。
「これで何隻めだ?」 “モリオ”隊長の問いかけに、“ナガイ”副隊長が疲労した声で答えます。
「35隻です。あと20隻が残っているはずです」
SSS号の眼下に数十隻の輸送艦が行き来する姿は、壮大な光景でした。
「1隻でどのくらい運ばれるのかしら?」 問いかける“リョウコ”隊員に“ムロイ”隊員が興奮した様子で答えます。
「一度に5000人らしいです。眼福ですねぇ、これだけの艦艇が集結している様子に感動しますよ」
あまりの興奮した様子に苦笑する“ファ”隊員と“マミ”隊員。
そんな中、SSS号に司令本部から緊急連絡が入りました。
「はい?上で?・・・了解しました。通信を終えます」
“オジカ”隊員の会話を聞き、“ムロイ”隊長は、問題が発生した事を感じ取ったようです。
「また司令部からか?船団の行き先の変更指示か?それとも収容時間の延長か?」
隊長の問いかけに、全員がげんなりした様子でお互いを見合います。
この任務に就いている間、何度も変更につき合わされ、隊員達は辟易していたのです。
「いえ、今回は違うようです。宇宙(うえ)で何か問題が発生したらしくて、我々に対処するように命令を受けました」
言葉を切ると同時に、“ファ”隊員をちらりと見ると、“オジカ”隊員は続けるのでした。
「いえ、我々と言うより・・・ファ隊員を向わせろとの指示が・・・」
「えっ?!」 「ファ隊員をか?理由は?」
“モリオ”隊長の質問に“オジカ”隊員も戸惑いを隠せません。
「いえ、理由はありませんでした。全速で宇宙都市1115号へ向うようにとの事です」
「いったいファに何を押し付ける気かしら?!」
司令部の横暴さに“マミ”隊員は怒りを口にしますが、当の本人の“ファ”隊員は、そんな“マミ”を諭すのでした。
「怒らないのマミ。行けば分かる事よ」
SSS号は目的地を変更し、1115号へと向ったのでした。

1115号に到着した4S隊を待っていたのは、連合と防衛軍の職員の対峙でした。
事情を調査する4S隊は、喧騒の中で苦心して情報を集める事に成功します。
シェルター計画で利用される宇宙都市は、宇宙連合の廃船寸前の大型戦闘艇を利用していました。
母艦クラスであれば、数千〜数万の人間を収納でき、生命維持を行なえるからです。
それに短期間で十分な数を用意できるからでもあったのです。(中古市場が連合には存在していたのです)
1115号は、そうした母艦の一つだったのでした。

「ええ、防衛軍の職員がこの船を検分した際に、どうも貶したらしいのです・・・」
「そのう・・・このボロ船とかなんとかと・・・」
苦節を磨り潰した様な顔で、互いの顔を見合わせる4S隊員達。
「なんとも・・・連合の協力で助けてもらっているのに、そんな対応ではな・・・」
「全く、同じ地球人として恥ずかしいですね」
「防衛軍の奴ら、メセドメキアとの戦いを自分達だけで戦っていると思っていやがる!」
口々に防衛軍を非難する4S隊員達を制し、“ナガイ”副隊長に先を急がせる“ムロイ”隊長。
「そんな処に間が悪いと言うか、何と言うか・・・連合の高官がいたのですよ」
頭に手を当てて天井を見上げる“モリオ”隊長。
「なんと・・・間の悪い・・・」
「なんとか防衛軍の高官が取り成そうと努力したのですが・・・そこでまた問題が発生したのです」
「今度は、なんだ?」 疲れ気味の“モリオ”隊長。
「連合の高官は、イムチェリー星人らしくて・・・」
「イムチェリー星人ですって?!」 驚いたように“ファ”隊員が叫びます。
「なに?!ファ・・・イムチェリー星人だと何か問題があるの?」
“ファ”隊員は、“モリオ”隊長と“ナガイ”副隊長を見やり、無言の了解を取り付けると話始めます。
「彼らは、世襲制の貴族政治を厳格に執行している民族です。その厳格さは著しく、それに誇りを持っています」
「そして、彼らは宇宙連合に属していても、連合の貴族又は王族出身者としか直接の対応をしません」
「そのイムチェリーの貴族員の高官に、平民に位置する防衛軍の職員が非難をしたとなると・・・」
肩をすくめ、呆れた様子の“ムロイ”隊員に苦笑する“マミ”隊員。
「収まらないわな・・・」
「それで、あの騒ぎなのです。貴族員が、身分に等しい代表に謝罪させろと言っているのです」
「しかし、地球防衛軍や国連には、そんな肩書きの代表者はいないぞ・・・」
「誰かに偽装させたらどうです?王族ですって名乗らせるんです」
“リョウコ”隊員の思いがけない対応策に、“ファ”隊員は、静に首を振ります。
「彼らには、その手は通用しないと思います。彼らは認識コード機器を装着しています」
「その機械には、連合に所属する、いえ彼らと接触のある代表者の遺伝子的記録が、記憶されているんです」
「為に、過去王族制度を執り、接触のあった星人以外の代表者とは、コンタクトを受け入れないでしょう・・・」
その話を聞き、“マミ”隊員が“ファ”隊員に問いかけます。
「分かった!何故4S隊が、この騒動を解決するように支持されたかを!」
“マミ”隊員の思いがけない話に、皆も気がつくのでした。
「ファ!貴方がいるじゃない!」
リュディアの王族である“ファ”の存在を知っていた防衛軍は、この事態に彼女をあてがおうとしたのです。
「誠に申し訳ないが、我々の為に力を貸していただけないだろうか?」
隊長の真摯な申し出に“ファ”隊員は笑顔で答えるのでした。
「ええ、私なら貴族員の方も交渉のテーブルについてくれるでしょうから」

“ファ”隊員を地球防衛軍の特使として仕立て上げ、“ムロイ”隊員“ナガイ”副隊長を護衛官、“マミ”隊員を御付の女官として随行させる“モリオ”隊長。
イムチェリーの貴族員も、王族の申し出とあれば、断る理由もなく、交渉に応じるとの回答が寄せられていました。
1115号内の一室で、会談を決行する彼ら。
室内に進み出て、イムチェリーの貴族員の前に立つ“ファ”隊員。
「リュディアの王娘 ファ・ロギュテルです」
イムチェリーの貴族員の一人が、走査線を“ファ”隊員にあてがい、その遺伝子情報を読み取り照会します。
何事かを代表者達に耳打ちした後、そのうちの一人が前に出て挨拶をするのでした。
「失礼致しました。リュディアの王娘 ファ・ロギュテル 様。我々のご無礼の段、お許し下さい」
代表者の名前はカーラと言い、イムチェリーの王族の一人だと紹介を受けます。
「いえ、そちらの習慣は存じ上げております。御気になさらぬ様に・・・」
“ファ”の申し出に、深々と頭を垂れるイムチェリーの代表団の姿に、随行の3人は驚きを隠せません。
王族としての“ファ”の姿を見たのは、出会ったとき以来の事だったからです。
目配せする彼らに苦笑を感じながら、“ファ”隊員は、代表との交渉の席につくのでした。

「しかし、驚きました。リュディアの王族の方が地球に避難なさっており、あまつさえ、その組織で活躍されているとは・・・」
カーラの驚きに“ファ”も儀礼的に答えます。
「ええ、此方の方々に救出していただき、それ以後お世話になっております」
「特に今のような状況では、私の経験と知識は、此方の方々には必要だと思い、またリュディアでの思いもあり、私の意志で参加させて頂いております」
“ファ”の答えに、カーラも頷きながら、笑顔で答えます。
「それは尊い考えです。リュディアの事は残念でした。我々もメセドメキアからの侵略を受け、そちらまで救援できず・・・」
“ファ”は、カーラの言葉に配慮します。
「ええ、ありがとう御座います。リュディアの件は、仕方ありません。あなた方の責任ではありませんので、お気遣いなく・・・」
「それでは、今回の件に対して、地球防衛軍の代表として、リュディアのファ・ロギュテルが交渉する事をお認め下さい」
礼を返し交渉する“ファ”にカーラは笑顔で答えます。
「いえ、それには及びません。今回の件で、我々が望む最大の条件を提示して頂いた事で、面目が立ちました」
「条件とは?」
「我々と交渉するに相応しい位の人物を派遣して欲しいと申し出ました」
「そうでしたか・・・」
「我々にも譲れない規律がありますので・・・」
「ええ、了解しております」
“ファ”の言葉にカーラは安心したようでした。
しかるべき代表者との会談で無いと、カーラの面目が立たず、イムチェリーとして連合の所属も危ぶまれたからです。
「これ以上の事は申し述べません。今回の件は、不問とさせて頂きたいと思います」
「それは、此方としても喜ばしい限りです。防衛軍には、私からそのように伝えましょう」

無事に会談を終え、イムチェリーからの会食に招かれた“ファ”達。
和やかに行なわれていた会食でしたが、カーラの一言が、“ファ”達に戸惑いを思い知らせます。
「しかし、地球では貴族政治をすでに終えているとか?」
「はい、私もそのように聞き及んでおります」 ちらりと“ナガイ”副隊長を見る“ファ”隊員。
「地球では、一部の地域を除いて、王制はなく、貴族も形式以外は存在しない所となっております」
“ナガイ”副隊長の返答に、カーラが問いかけます。
「ならば戦士階級が存在しないのですね。だから地球は宇宙連合に助力を求められたのですね?」
その言葉には、王制を廃止している地球人に対しての嘲りであり、嘲笑を含んでいたのです。
敏感にその意を感じ取った“ファ”は、カーラに反論するのです。
「いえ、地球人は、王制を否定しているわけでなく、その為に戦士の誇りを失ったわけでもありません!」
しかし、自己を唯一の戦士階級と信じているカーラに、そんな説明は受け入れられるわけもなく、会食は紛糾してしまうのでした。

そんな時、イムチェリーの戦士が、カーラに耳打ちしたと同時に“ファ”達の通信機が呼び出し音を発します。
「牙獣ですか?!分かりました。迎撃任務に戻ります!」
“ナガイ”副隊長が、“ファ”達に状況を知らせます。
「1115号の近辺で、牙獣の反応を確認した。防衛軍の遊撃部隊も此方に向っているが、数時間はかかるとの事だ。それまで4S隊が支える事になった」
4S隊がイムチェリーの元を去ろうとした時、カーラが彼らを制止します。
「地球人の方々はしばらく此処でお待ち下さい。まだ引渡しが終っていない以上、これは我々の母艦であります」
「我々の手で、牙獣から守りたいと思います」
カーラの申し出に驚き、反論する“ファ”隊員。
「ここには避難民もいます。彼らの安全を図るのも、我々の任務なのです」
しかしカーラは、貴族でない地球人を信用していませんでした。
「申しわけありませんが、ここでお待ち下さい!」
衛兵に4S隊を見張らせ、牙獣迎撃へ出撃するカーラ達イムチェリーの戦士たち・・・
1115号からもその姿が、映し出されていました。
「拙いなファ。彼らを何とか説き伏せて、ここから出られないだろうか?」
“ナガイ”副隊長は、“ファ”に思案顔で相談しますが、彼女は静に首を振ります。
「今は無駄です。彼は、地球人を戦士として信頼していません。どちらかと言うと守るべき占民と思っています・・・」
“ファ”の話を聞いてため息をつく“マミ”隊員。
「チャンスを待つしかないわね。SSS号も当然彼らに抑えられているでしょうから」

牙獣と対峙し、戦闘行動に移るカーラ達イムチェリーの部隊。
「我々の力を、地球人どもに見せつけるのだ!」
突撃してゆく、戦闘艇群。
牙獣に対して、レーザー火器で攻撃を繰り返すも、牙獣の勢いは止まりません。
「頭部に攻撃を集中する!」
カーラは、牙獣の弱点と思われる頭部への攻撃を指示しますが、いつもと勝手が違う事に気づくのでした。
地球に巣くう牙獣は、イムチェリーを襲っていた牙獣とは、比べるまでもなく強力である事に・・・
「攻撃さえ集中できれば、奴を粉砕できる!」
カーラの指示の下、イムチェリーの戦闘艇は攻撃を続けます。
しかし、牙獣の攻撃で次々と撃破されてゆくイムチェリーの戦闘艇。
「カーラ隊長!我々の武器がここの牙獣には効きません!どうすればいいですか?隊長・・・隊長!!」
仲間の叫び声が通信機から流れるも、カーラに対処法もなく、攻撃を繰り返す事しかできません。
ついには、カーラの機体までもが牙獣の攻撃に晒され、被弾してしまいます。
「く・くそう!!このままじゃ・・・このままじゃ・・・!!」
その様子を見ていた“ファ”は、意を決して、部屋を封鎖しているイムチェリーの戦士に言い放つのです。
「私達をここから出しなさい!これは私の命令です!」
イムチェリーの戦士は貴族員の命令に逆らえないように、認証された他の王族の命令にも逆らえないようになっていました。
自分の支配階級と相反する命令に戸惑う戦士たちに、“ファ”は、王族として威厳を持って諭すのです。
「私はリュディアの“ファ”。貴方達に命令します、カーラ援護の為に我々を助力させなさい。全て、私の責務に於いて!」
戦士たちは、彼らの支配階級を守る為に出撃すると言う“ファ”達の言葉を信じ、かれらをSSS号に誘導するのでした。

格納庫から飛び出すSSS号。
苦戦しているイムチェリー隊に接近し、状況を確認すると“ファ”隊員が、カーラに通信します。
「カーラ!4S隊が加勢します!隊形を取り直し、態勢を整えてください!」
突如の通信に驚くカーラを尻目に、SSS号は牙獣に攻撃を仕掛けてゆきます。
SSS号の武装は、牙獣との戦いの中で強化されており、イムチェリーの戦闘艇では威力不足で効果の薄かった打撃を牙獣に与えるのでした。
SSS号の掃射は、牙獣の皮膚を傷つけ、怯ませる事に成功したのです。
その間に態勢を整えたカーラの部隊は、傷つけた部位を狙い撃ちしてゆきます。
勇猛なイムチェリーの部隊は、弱点を再接近して叩き、その傷を広げます。
苦悶する牙獣は、全身を奮い立たせると輝きを増し、炎となって辺りを手当たり次第に燃やし尽くそうとします。
まるで太陽が生まれたようでした。
次々と飲み込まれてゆくイムチェリーの戦闘艇・・・
ついには、SSS号とカーラの戦闘艇を飲み込もうとした瞬間、牙獣を遮る者が現れます。
逆巻く炎の渦を押しとどめたのは、青い光の球でした。
「あれは?!」 カーラの叫びに“ファ”が誇らしげに応えます。
「あれは、我々の希望!そして、皆を守護する者です」
青い光は人の形になり、カーラの目前で超人戦士となるのでした。
「あれが・・・」
呟くカーラに“ファ“は、誇らしげに名前を告げるのでした。
「そう!名前は、アルヴィス・・・ウルトラマンアルヴィス!」
牙獣と対峙し、自分達を守るように立ちはだかる超人戦士の姿に、カーラ達は驚きを隠せません。
「これが、地球を守る偉大なる戦士・・・噂のアルヴィス・・・」
アルヴィスと牙獣は死闘を繰り返しますが、頭部に受けた傷により、牙獣の動きが抑制されます。
その隙をアルヴィスは見逃しませんでした。
スペクトラムラッシュで、牙獣に止めを刺すアルヴィス。
見事牙獣に炸裂し吹き飛ぶその様子に、全ての人々から歓声があがります。
振り返るアルヴィス。
その姿を見る“ファ”は、安堵したように微笑を返すのでした。

防衛軍の戦闘艦艇が到着し、イムチェリーの部隊の救出を行います。
4S隊も、その作業に加わります。
すべての作業が終り、1115号の格納庫で別れを告げようとする防衛軍部隊に、イムチェリーの全ての兵士が礼をささげました。 王侯貴族員以外の民族に礼を取らない彼らが、初めて地球人に対して敬礼をとったのです。
指揮官カーラが4S隊の前に進み出て、“ファ”を見た後、“モリオ”隊長に握手を求めます。
「地球人の勇気と誠意に感謝いたします。この度のご無礼をお許し下さい」
彼女の言葉に“モリオ”隊長もにこやかに答えるのでした。
「いえ、あなた方の助力で、我々も救われました。此方こそ感謝いたします」
信頼できる友人として、イムチェリーと地球人が結ばれた瞬間でした。
イムチェリーの戦闘艇団は、引渡し任務を終え、1115号を離艦してゆきます。
それを見送る4S隊、そして防衛軍隊員達。
彼らも又、最敬礼で、帰還するイムチェリー人を見送るのでした。
【第42話/完】




ホームに戻る / アルヴィス設定ページに戻る