爆発する宇宙船内部。 爆炎から逃れようとする二つの影が、そこにありました。 「大丈夫、又お母さんに会えるから、泣かないでいっしょにいこう」 崩壊しつつある船内を、子供と進む一人の女性宇宙飛行士。 船内図を見て取ると、彼女は、子供を抱えながら奥へと進もうとします。 船内図のプレートには“ジュピター”の文字が。 ・・・あれ?ここは、何処?? ・・・危ない!そこは崩れるわ、避けて!! 崩れる外壁を間一髪で避ける飛行士と子供。 ・・・もう少しよ、もう少しで、安全な場所に・・・ なんとか研究室ラボにたどり着いた二人。 ラボの扉が閉まると同時に通路は崩壊し、火炎に飲み込まれてゆきます。 船内には、コンピュターの警告音声が流れています。 “本船は、船体に致命的な損傷を受けました。乗員は、直ちに本船から離脱してください。本船は、船体に・・・” 女性飛行士は、子供を抱きかかえます。 「御免ね、御免ね・・・」 彼女の頬に涙が伝うのでした。 ・・・自分の判断の甘さ、自分の無力のせいで、幼い命を守る事ができない・・・ ・・・怖い・・・怖いわ・・・ ・・・火に焼かれ、無力なまま死んでゆく自分・・・ ≪貴方は、自分の決断に自身を持ちなさい!結果を恐れちゃダメ!!≫ ・・・!誰?誰なの? ≪人は、必ず最良を選択できるとは限らない。でも最善を尽くす事はできるのよ!!≫ ≪信じなさい!自分自身を≫ 突然の声に驚いた“マミ”の意識は、プラウスの呪縛から逃れ、アルヴィスの元に戻ったのです・・・・ “何、こいつ!私に幻覚を・・・” 混濁の意識から回復した“マミ”は、目の前に立ちはだかるプラウスに一撃を放ちます。 アルヴィスの一撃は、プラウスの胸部に炸裂し、弾き飛ばしたのです。 その際にプラウスの発生器官が破壊されてしまい、周波が途絶しました。 全ての兵士の抑制が解けてゆきます。 「今だ!全機攻撃を集中せよ!」 “モリオ”4S隊長の掛け声とともに、防衛軍の戦闘艇とSSS号は、プラウスに攻撃を再開します。 その猛攻にプラウスは撤退をしてゆきます。 その姿を見送りながら“マミ”は意識を失い、アルヴィスの変身も解けるのでした。 防衛軍の病棟で点滴をうけつつ体を休める“マミ”隊員の姿がありました。 心配そうに見つめる4S隊員達。 「どうなのでしょうか?マミの状態は・・・」 フジ監理官の問いかけに、医務官は辛そうに答えます。 「彼女の肉体的な損傷は問題ありません。ただ・・・」 「ただ?」 「彼女の精神的なダメージが強く計測されます。未だ我々の医学では人間の深層心理まで解析する事は難しく、積極的な治療法がありません」 医務官の返答に驚きを隠せない4S隊員達。 「うわ言で、何か子供の事?いえ、たぶん宇宙船事故の事をしきりに伝えています・・・」 「多分それが、牙獣の攻撃で呼び覚まされたと・・・」 「彼女が、初めて遭遇した宇宙船事故の事ね」 思案げなフジ監理官。 「どちらにしてもしばらくショウ隊員は動かせません」 「分かりました。病状の回復に努めてください。よろしくお願いします」 “マミ”を欠いた4S隊は、引き続き牙獣プラウスの再襲撃に備え、待機することにします。 そんな時、フジ監理官は“ファ”隊員を執務室に呼ぶのでした。 執務室内で、フジ監理官は、“マミ”の病態と現状について質問をしました。 「ファ、私はマミが、アルヴィスなのを知っています。彼女が巻き込まれた事件が、アルヴィスとの出会いになった事も」 驚く“ファ”隊員 「いえ、私だけの秘密です。4S隊員達は、アルヴィスは貴方が変身していると考えていますがね」 “ファ”は“フジ”監理官が何を望んでいるかを理解しました。 「はい、仰るとおりです。私も以前はアルヴィスの共生体としての能力がありました。しかし、すでにその力はマミに・・・」 「そうですか・・・。アルヴィスは地球防衛の要です。そのアルヴィスが動けないので、貴方に協力を仰ごうと思ったのですが・・・」 フジ監理官は、“マミ”隊員が回復するまでの間、“ファ”のアルヴィスへの変身を願ったのです。 「マミの精神的な傷は、必ず回復します。それまでは、私が何とかします」 “ファ”隊員の意気込みに、何かを感じ取るフジ監理官。 「何か策があるのかしら?」 「いえ、残念ながら、私はアルヴィスの共生体からは外れました。でも・・・」 「でも?」 言葉を濁す“ファ”隊員に、フジ監理官は諭すように話しかけます。 「ファ、貴方は異星人ですが、私達の仲間です。そしてマミ隊員が、一番信頼を寄せる友人です。その彼女が悲しむ事は、許しません」 フジ監理官の言葉に、涙を浮かべる“ファ”隊員。 「任務に戻りなさい、そして、決して軽はずみな行動を取らないように厳命します」 執務室を出る“ファ”隊員を見つめながらフジ監理官は、アルヴィスに語りかけます。 「アルヴィス・・・彼女達を守ってあげてください・・・」 執務室をでた“ファ”は、防衛軍のアマティ隊司令室へ向いました。 彼女は“ジン”隊員に会うつもりでした。そう、彼女の持つ腕輪の意味を知るために。 司令室で忙しく活動する防衛軍兵士の中に、“ジン”隊員の姿はすぐに見つかりました。 「ファ、やはり来たね」 笑みを浮かべる“ジン”隊員に、“ファ”は、用件だけを述べようとします。 「おっと!ここじゃ不味いな。場所を変えよう・・・」 “ジン”は時計を見て艦内時間が昼時を指し示しているのに気付くと、“ファ”を食事に誘うのでした。 サブリナス基地の艦内食堂でも、士官用は半個室になっていて、兵用の開放的なものとは異なっていました。 テーブルで対峙する“ジン”と“ファ” 「さて、君が来たという事は、例の事かな?」 ポケットから腕輪を取り出し、テーブルの上に置く“ファ” 「これが何かを、教えてちょうだい」 腕輪を見つめる“ジン”隊員は、“ファ”に問いかけます。 「牙獣の精神攻撃でマミ隊員は重篤な状態だ。でも牙獣の攻撃を防ぐには、アルヴィスの力が必要だ」 「もしかしたら、この腕輪でもう一度アルヴィスと戦えるかも・・・そう思って来た??」 自分の考えていた事を言い当てられ、驚きの表情を隠せない“ファ”隊員。 「残念だけど、これはそういう物じゃない。でも君とマミ隊員を助ける事ができるかも知れない・・・」 「それは、どういう事なの?」 腕輪の一部を開放し、その中の印章を“ファ”隊員に見せる“ジン”隊員。 「?」 「これは、ウルトラの戦士の称号。アルヴィスもジュダも、私のマキシマも固有のものを持っている」 「つまりこれは、新しい戦士の称号さ」 「!、まさか!」 驚き、腕輪の称号を見つめる“ファ”隊員。 「君は、アルヴィスとの共生能力を失ってしまった。しかし、このウルトラマンは、未だ一度も共生関係を結んだ事がない」 「だからこそ、君を受け入れる事ができるだろうと思ってね」 「君は、マミ隊員とその仲間達をこのまま死なせる訳にはいかないはず。そして、それを防ぐ力を手に入れる事ができる」 “ジン”隊員の話を聞き、“ファ”は、逆に問いただします。 「貴方は、私達と敵対するものです。何故その私に協力するの?」 彼女の質問に“ジン”隊員は、“ファ”隊員を見直します。 「そうだね、ファ。君は本当に賢い女性だよ」 「これを使うにあたっては、君自身にかなりの負担を強いることになると思う」 “ジン”隊員の言葉を噛締めるように聞き取る“ファ” 「君が身を預けようとするウルトラマンは・・・」 「?・・・」 「メセドメキア自身が作り上げた、ウルトラマンなのだ」 「!!」 思わず腕輪と“ジン”隊員を見返す、“ファ”隊員。 「それでは、貴方は私にメセドメキアの軍門に下れと・・・?」 テーブル下の“ファ”拳が震えていました。全てを奪ってきた憎むべき敵の力を借りる事など、彼女自身を否定する事でしかありません。 到底受け入れられる事では、ありませんでした。 そんな“ファ”隊員の様子を見て、“ジン”隊員は、言葉をつなげます。 「このウルトラマンを受け入れたからといって、直ぐに君がメセドメキアに取り込まれる恐れは無いよ」 意外な指摘に、“ジン”を見上げる“ファ”隊員。 「君の精神力は、非常に強い。意志の力は、私達も驚くほどだ。だから気持ちさえ強く持っていれば、メセドメキアの力を制御できるはず」 「しかし、君が少しでも油断すれば、取り込まれてしまう・・・」 “ファ”隊員は、“ジン”隊員を見つめると静かに話し始めます。 「私の意志・・・、取り込まれれば破滅しかない・・・、しかし今はそれしか手立てが無い」 「とすれば、選択の余地は・・・無い」 “ジン”隊員は彼女の意思を確認すると、満足そうに彼女の腕に腕輪を装着します。 「貴方にはその力がある。それを使うべきだろう」 カチッ!と音がして装着される腕輪。 「そう・・・最適の選択は、決して最良の結末ではない・・・でも最善を尽くすべき・・・」 “ファ”隊員の言葉にうなずく“ジン”隊員に、彼女は問いかけます。 「なんて呼ぶのかしら?」 その問いかけに呟くように答える“ジン”隊員 「エクストリマー・・・ウルトラマン エクストリマーだ。」 メキアの星で傷を癒したプラウスは、再度サブリナス基地に襲撃をかけてきました。 4S隊は、“マミ”隊員を残したままSSS号で出撃、アマティ隊も迎撃態勢をとり、プラウスに攻撃を仕掛けます。 そんな喧騒の中、“マミ”隊員は意識を取り戻したのです。 「・・・皆は?ここは・・・?」 基地内に警報が鳴り響いている事から、プラウスの再襲撃を理解した彼女は、急いで制服に着替えます。 「あの牙獣には、アルヴィス以外に対抗出来るものはない」 “マミ”の考えるとおり、又もや防衛軍はプラウスの周波に混乱されてしまい、有効な打撃を与えられなかったのです。 イヤリングを触り、アルヴィスに変身しようとする彼女に、事故の恐怖が思い出されます。 震える手を、意志の力で押さえつけながら、“マミ”は、仲間達が戦っている宇宙を見つめます。 「恐れる心に負けない!負けちゃいけない!」 “マミ”隊員のイヤリングが光り輝き、光の玉が戦場へと飛び立ちます。 戦場では、防衛軍が次々と撃破されていました。 周波による恐怖は、対象を選ばずに襲い掛かり、人々を狂乱の渦に巻き込んでいたのです。 SSS号も例外ではありませんでした。 一瞬の隙に、プラウスの間合いに踏み込んでしまったSSS号に、鋭い爪が迫ります。 「し、しまった!」 “ナガイ”副隊長の叫び声に、4S隊員達は、絶望を予感します。 プラウスの一撃で、SSS号が粉砕されると思われた瞬間、アルヴィスが盾になり、危機を避ける事ができたのです。 「アルヴィス!」 「アルヴィス!」 歓喜の4S隊員。 しかし“ファ”隊員は、そんなアルヴィスを見て思うのでした。 ≪マミ!貴方は、恐怖を克服したの?≫ 果敢な攻撃を仕掛けるアルヴィスでしたが、ついにプラウスの周波に捉まり、“マミ”に精神攻撃が加えられてしまいます。 耐え難い恐怖が、“マミ”の心を蝕み、アルヴィスの共生関係が断ち切られようとするその時、新たな光体がプラウスに激突します。 突然の襲撃で、プラウスも弾き飛ばされ、アルヴィスは窮地を救われます。 光の靄が晴れ、人型の輪郭を形作ると、それは明確な姿を現したのです。 「ウルトラマン?」 「新しい奴か?」 「味方なのか?」 4S隊や防衛軍の全ての人々が、新しいウルトラマンに注目します。 ≪誰?貴方は誰?≫ “マミ”の問いかけには答えずに、もそれはプラウスを指差します。 ≪一緒に戦おうと?≫ “マミ”の考えに反応するかのように、それは頷くのでした。 エクストリマーとアルヴィスは、協同でプラウスに対峙します。 二人のウルトラの戦士の攻撃に、プラウスは翻弄されます。 しかし一瞬アルヴィスの動きが止まった時(マミの怪我が完全に回復していない為)、再びプラウスの周波に捉えられてしまうのでした。 再度繰り返される精神攻撃に翻弄される“マミ” その“マミ”の心に“ファ”の声が響いたのです。 ≪貴方は決して弱くない!それが最良の結果でなくても、最善を尽くそうとする勇気があるわ!それを忘れないで!!≫ “マミ”は、プラウスを見据えます。 ≪そう、最善を尽くして諦めない事!あの時も諦めない事でアルヴィスと出会い、ファとも出会えた!≫ ≪こんなマヤカシで私の心を操るなど、許さない!≫ “マミ”の思いはアルヴィスの力となり、必殺技スペクトラムラッシュを放ちます。 エクストリマーも同様に必殺技を放ち、双方の光線は互いに交わりあい、プラウスに直撃します。 はじけ飛ぶプラウスに、すべての防衛軍は喜びに包まれたのでした。 エクストリマーとアルヴィスは、互いに向き合うと頷き返しあい、双方に飛び去るのでした。 その姿を見て、笑みを浮かべる“ジン” ≪ファはすでにこの手に落ちた。次はマミ、お前の番だ・・・≫ “マミ”の窮地を救う為に、敵メセドメキアの力を得て、ウルトラマンエクストリマーに変身できるようになった“ファ”。 しかし、それは諸刃の剣でもあった。取り込まれてしまえば、“マミ”とアルヴィスにとって最強の敵になる存在でもあったのです。 まだその事実を“マミ”は知りませんでした。 今は、無事に再会できた事を“ファ”と喜ぶ、無邪気な彼女がいるだけでした。 【第44話/完】 |