山梨の湖畔にたたずむ洋館。 個人所有の別荘と言う肩書きで存在しているこの建物は、防衛軍の秘密研究所だったのです。 地下に広がる施設では、あらゆる研究がなされており、優秀な理科学者が働いていました。 その研究室の一つである103号室。 ここでは、病理関係の研究が行なわれており、牙獣の生体や異星物の解析を掌っていました。 「うっ?!これは・・・」 一人の研究員“鮎川”が解析していたのは、牙獣の細胞扁でした。 その扁で、牙獣の弱点を突き止めようと研究していたのですが、彼は何か別の物を見つけたようです。 鮎川は、辺りを見回し、自分の発見を他の研究員に悟られていないかを確認すると、解析したディスクを懐に隠すのでした。 その夜、研究所を無断で飛び出した鮎川は、その姿を闇に消します・・・。 夜が明けて、洋館を含む一帯を、事故として封鎖する防衛軍警務隊。 鮎川が、何らかの研究情報を持って抜け出した事を知った防衛軍は、直ちに彼の追跡を敢行したのです。 その任務にアマティ隊も駆り出されました。 「で、鮎川はいったい何を持ち出したのかしら?」 “ユウコ”隊員の指摘に、首をかしげながら返答に詰まる“ジン”隊員。 「わかりません。研究所の関係者によると彼は、遺伝子情報の解析を行なっていたようです」 「遺伝子情報?」 「そうです。対牙獣攻撃用の細菌兵器の研究だったようですね」 「ただ・・・」 思案げな“ジン”隊員に、“ユウコ”隊員は先を促します。 「どうも最近、メセドメキアの研究を進めていたようで・・・例の4S隊が持ち帰った遺跡物を無断で研究していたようです」 「では、彼はそこから何かを見つけたと・・・?」 “ユウコ”と“ジン”は互いに目を合わせると、他人には聞こえないようにテレパシーで会話し始めます。 ≪不味いわね、彼が本当にメセドメキアの何かを手に入れたとすると私達にも脅威となり得るわ≫ ≪ええ、その通りだと思います。早く彼を捕まえないと・・・≫ ≪特に4S隊に先行されると、話がややこしくなるわね≫ 「隊長!捜索隊の準備が整いました。指揮をお願いいたします」 突然声をかけられ、平素を装う二人。 「ええ、了解しました。早速取り掛かってください」 ≪ジン、貴方は単独で彼を追いなさい。もし彼が情報を会得していたら・・・≫ ≪会得していたら・・・?≫ ≪全てを抹消しなさい!彼も情報もすべてね!≫ “ユウコ”隊員は“ジン”に命令すると、警務隊を率いて捜索に入るのでした。 一人その場に残る“ジン”隊員 「まさかな・・・その情報を消し去る?有効に使わせていただきますよ、クックックク・・・」 “ジン”隊員はマキシマの能力を使い、鮎川の位置を突き止め、その前に現れます。 「!」 突然現れた“ジン”に驚く“鮎川” 思わず後ずさりしながら鮎川は、彼から遠ざかろうとしますが、“ジン”がそれを許すはずもありません。 「お前は何を知った?そして何処へ行こうというのだ?」 “ジン”隊員の問いかけに、鮎川は、黙認したままです。 「私は・・・私は・・・」 「いや、話さなくいい」 “ジン”隊員の思いがけない言葉に安堵したした鮎川に、彼は手を翳すと、光の粒子を浴びせます。 「なに?!なんだこれは?」 叫び、もがく鮎川に“ジン”隊員は、冷酷に呟くのでした。 「話さなくていい・・・情報は直接頂くからな・・・」 光の粒子は、鮎川の頭を潰し、脳細胞組織から情報を抜き出してゆきます。 それを取り込んでゆく、“ジン”隊員。 「ほほう・・・これが、これがメキアにして、マミとファを会得したい理由なのか!」 「くくく・・礼を言うよ、鮎川とやら!おっと、貴様は、Purityに連絡していたのか・・・」 鮎川を完全に消去した“ジン”隊員は、ほくそえみながら通信機で、“ユウコ”隊員に連絡を送ります。 作業は終ったと・・・。 “ジン”隊員は、その足で鮎川の記憶を下にPurityの構成員との会合地に向うのでした。 都内某所のビルの地下で、私服に着替えた“ジン”隊員は、Purityの構成員と接触を果たします。 「鮎川か?」 構成員は、鮎川の顔を知らないようでした。 “ジン”隊員は、鮎川になりすまし、Purityの情報を手に入れようとします。 「ああ、情報はこのCDにある。これに貴様らの欲しい情報が記録されている」 「これが、超人戦士達と地球人との関係を指し示しているのか?」 興奮した様子で語る構成員に、“ジン”隊員は、制します。 「目的地に辿り着くまでの間に話をしよう」 車中で“ジン”隊員は、先程の件を語り始めるのです。 「メセドメキアは、超人戦士を操る為に、精神の補完を行なう必要がある事は知っているだろう?」 「ああ。その情報で作戦を決行してみたが、超人戦士にはならず、怪物になり失敗している・・・」 「それは、π遺伝子が欠如していたからさ」 「なんだ、その遺伝子は?」 「過去に超人戦士達と接触を持った生物と言うことさ・・・」 「接触?過去に?」 驚く表情の構成員 「そう、はるかな過去に超人戦士達は、この惑星に辿り着き、地球人と接触し、遺伝子的改変を加え、成長を促した事の証拠・・・」 「それは、すべての人類に存在しないのか?!」 「残念だが、進化の途中でその存在が気薄となってしまい、補完できるほどの効果が期待できないのだ」 「しかし、少数の地球人には、それが強く残存していて、超人戦士を補完できるのさ」 感慨深い構成員 「ふむ・・・そこでそのCDの内容なのだな・・・」 「私は、牙獣の被細胞と人の細胞の研究をしていたのだが、極度に反応を示す人細胞を見つけたのだ」 「その人細胞は、牙獣の細胞を取り込み、支配する遺伝子を有していた」 「それが、Л(エル)遺伝子さ」 「Л遺伝子・・」 「これは核変したπ遺伝子とは違い、超人戦士の一族が持つ固有の遺伝子と思うんだ」 「良くわからないが、もう少し簡単に説明できないだろうか?」 「つまり、π遺伝子は、古代に遺伝子操作された地球人である事を示し、Л遺伝子は超人戦士と地球人との交配との結果生まれた遺伝子だと言う事さ」 「!・・・つまり直系なのか?!」 その言葉に自分とマキシマとの関係、彼女達とアルヴィスの関係に思いが走るのです。 ≪だからこそ、私とマミ、ファの力の差が現れているのだ・・・≫ その思いから車内の取っ手を強く握り締めてしまう“ジン”隊員の様子に、いぶかしげなPurityの構成員。 「おい、どうした?気分でも悪いのか?」 我に返る“ジン”隊員は、構成員に微笑み返すのでした。 「いや、少し疲れただけだ・・・少し休ませてもらう」 二人を乗せた車は、闇の中に消えてゆくのでした。 サブリナス基地のアマティ隊司令室を訪ねる“ファ”隊員。 「あら珍しいわね?ジンに用事ですって?」 軽口で“ファ”隊員に対応する“ユウコ”隊員。 「はい・・・お見えになりますか?」 “ユウコ”は“ファ”隊員の雰囲気に違和感を覚えながらも、“ジン”隊員が任務中である事を伝えるのでした。 「貴方、ジンには、注意した方がいいわよ」 “ユウコ”隊員の言葉が冗談なのかは、“ファ”隊員には関係がありませんでした。 すでに、彼の術中に陥っているのを感じている“ファ”でしたから・・・ 「この周期的に起こる胸の痛みはなんなの?ジンに聞かなくては・・・」 息苦しさを堪えながらサブリナス基地を出る“ファ”隊員。 彼女は、“ジン”隊員を追って地球へと向うのでした。 地上で心当たりを探る“ファ”隊員。 “マミ”隊員の協力でアマティ隊の通信装置を解析し、逆探知に成功、着陸寸前に彼女の元に知らせてきたのでした。 小1時間も街で探していた所、偶然にも“ジン”隊員を見つける“ファ”。 しかし、“ジン”と他にも同行者の確認をした“ファ”は、後をつけることにします。 なんとか彼らを追跡し、教会に辿り着いた彼女は、そこでPurityと接触する“ジン”隊員を確認するのでした。 「ようこそ鮎川君、メセドメキアの秘密を解析できたとは本当かね?!」 黒服の男は、構成員の一人からCDを渡され、“ジン”が語った内容を男に伝えます。 「それは素晴らしい!では・・・・を・・・・し、解放すれば・・・・できるのだな?」 彼等との距離が遠い為、詳しい内容が“ファ”には聞き取れません。 「何を喋っているのかしら?もっと近くに行けば・・・」 そう思った彼女が踏み出した時、突然胸痛に見舞われます。 思わず唸り、しゃがみこんでしまう彼女が立てた物音に、3人の男達が気づいてしまうのです。 「ちっ!邪魔者か!また会おう鮎川君・・・」 黒服の男は、構成員に目線で“ファ”の始末を合図し、部屋を抜け出してゆきます。 構成員と一緒に近づく“ジン”に、“ファ”は、胸を押さえながら問いただします。 「ジン!貴方は、Purityのスパイだったのね?!」 彼女の叫んだ名前が、鮎川でなく、“ジン”だった為に驚き、標的を変えようとする構成員を片手で制し、地面に押し付けて身動きが取れないようにしてしまいます。 「おやおや・・・こんなところで貴方と出会えるとは・・・」 苦笑する“ジン” 「しかし、できるなら時と場合を考えてもらいたいですがね、私の名前を呼ぶのは・・・」 悪意に満ちた表情で“ファ”を見る彼は、彼女の症状を察するのでした。 「そうか、胸が痛いのだね。そうか・・フハハハハ・・・」 苦しい中“ジン”に問いかける“ファ” 「エクストリマーとの共生から、この症状が始まっているの!どうしてなの?答えて!!」 「それは、君とエクストリマーとの共生関係が深まっている事を示しているのだよ」 「?」 「君の心が、蝕まれていると言って寡言ではない・・・」 「!」 「すると、この痛みが消え去る時、私は、私はメセドメキアに共生されてしまう・・・」 「その通りだ。これが、前に述べたとおり、君がマミを助ける為に手に入れた力の代償なのだよ!忘れていたわけではあるまい?」 自分の意思さえしっかりしていれば、メセドメキアに取り込まれないと信じていた“ファ”でしたが、それとは関係なく、徐々に蝕まれてゆく事に恐怖を感じたのです。 「メセドメキアへの生贄と言うわけね・・・」 「フフフフフ・・・そうさ、その為に君を引き込んだのだ!」 「そして今、Purityさえも我が手に堕ちた・・・」 Purityとの接触で、彼等を操ろうとする意思を感じ取った“ファ”は言葉を荒げます。 「貴方と言う人は!!」 “ジン”隊員の手から放たれた光は、構成員にあたり、牙獣へと変化させます。 「Purityには、π遺伝子の資格者が沢山いる、彼もその一人だ。だがπ遺伝子保持者でも単純に指向させてしまえば、このありさまだ」 構成員から変化させた牙獣は、街を破壊し始めます。 「メセドメキアは、ウルトラの国を食い尽くした後、自分自身の手足さえも無くしてしまった事に気づいたのさ」 「このままでは、究極の目的を果たせないとね」 挑むような目で“ジン”隊員を睨みつける“ファ” 「だから、ウルトラの一族が、他の惑星で進化を促進する活動を行なっていた事実を知ったメセドメキアは、π遺伝子を利用して牙獣を作り出した」 「多くの星々に、その遺伝子保持者が存在していたからな」 「それが、メキアが銀河中に侵略の魔の手を延ばした理由なの?」 「フフフフ・・・処がどんなに牙獣を作り上げても、メセドメキア自体は解放されなかった・・・」 「?!」 「手足が自由になろうと、メセドメキアを封印しているのは、ウルトラの戦士の魂だからさ」 「魂?」 「そう、貴方も知っているはずさ。アルヴィスが君やマミを必要とする訳をね」 「・・・・・・」 「だけど・・・だけど、何故私やマミなの?」 「そこが核心部分なのさ!しかし、今はそれを君に話す必要はない」 「!」 「ジン!!もしかして、私だけでなく、マミまで巻き込もうとしているのでは?!」 「待って!ジン!お願い、彼女には手を出さないで!お願い・・・」 牙獣が暴れている中で、“ジン”が最後に放った言葉は、“ファ”には届きませんでした。 しかし、あの笑みには、隠し切れない嘲笑の因が含まれていたのです。 涙を流す“ファ”・・・しかし心の中から怒りがこみ上げ、それが彼女の腕輪に反応してしてゆきます。 彼女の体が輝きに包まれると、そこにはウルトラマンエクストリマーの姿があったのです。 牙獣の突進を受け止めると同時に、その手をへし折るエクストリマー。 続いて足を折り、目を潰し、腹を突き破ります。 阿修羅のごときその強さは、悪鬼のようだったのです。 ついには、牙獣をその腕力で真っ二つに引きちぎると、エクストリマーの姿は街から消え去ってゆくのでした・・・ 4S隊が到着した時、すべては終っていました。 ただ、ガレキに眠るように倒れている“ファ”が其処にいるだけでした。 【第45話/完】 |