第50話

牙獣 ザコルバ
登 場




地球防空圏に浮かぶ、サブリナス基地。
その一画、特務科学特捜隊の司令室には、重い雰囲気が立ち込めていました。
司令室に詰める4S隊員達。その一人、“ムロイ”隊員の右手には、紙が握り締められていたのです。

「隊長!どうしてですか?何故、僕が?!」
彼が握り締めていたのは、異動命令辞令書・・・4S隊からアマティ隊への移動命令だったのです。
元々指揮系統の異なる部隊への異動命令は、珍しい事でした。
「隊長!答えてください!」
“ムロイ”隊員の必死の訴えにも拘らず、“モリオ”隊長は、黙って語ろうとしません。
抗議の目を向ける他の4S隊の面々・・・。
「これは、地球防衛軍参謀本部の直接辞令だ。ムロイ・・・残念だが、従わなければならない・・・」
苦渋の選択をしている様子の“モリオ”隊長の姿に、4S隊員達も非難の拳を下げざるを得ません。
「すまない、ムロイ隊員。私にはこれを撤回する力が無いのだ・・・」
そんな様子から、“ファ”隊員が、隊長に問いかけます。
「フジ監理官は?・・監理官は、なんて?」
静かに首を振る“ナガイ”副隊長。
「ファ、これは最終決定だそうだ。私も監理官に問いただしてみたが・・・」
哀しそうに項垂れる“ファ”隊員。
そんな“ファ”隊員を慰める“マミ”隊員。
「前回の事件から、科学特捜隊、特務隊の任務の縮小が、一部の高官から叫ばれているのは事実だ。その為かも知れん・・・」
「時期が来たら必ず呼び戻す、ムロイ隊員!」
隊長の言葉に、泣き笑いの表情を返す、“ムロイ”隊員。
「分かりました。向こうで、特務科学特捜隊魂を見せ付けてきますよ!」
部屋を出る“ムロイ”隊員、見送る隊員達にも涙がありました。

4S隊司令室を後にする“モリオ”隊長を“ナガイ”副隊長が呼び止めます。
「隊長・・・内密の話が・・・」
その様子に、自分の居室に彼を招き入れた“モリオ”隊長。
「ああ、君の言いたい事は分かっている。何故私が直接にフジ監理官に上申しないのか?だろう」
静かに頷く“ナガイ”副隊長。
「これは極秘事項なのだが・・・実は・・」
耳打ちされた話に驚く、“ナガイ”副隊長。
「これはフジ監理官の意志でもある」
固い決意の隊長に、“ナガイ”副隊長も矛を収めるしかなかったのです。

アマティ隊司令室に到着した“ムロイ”隊員。
司令室内では、多くの要員が忙しく動き回っており、流石、現在の牙獣対抗部隊としての活気に溢れていたのです。
そこに現れる“ユウコ”隊員。
「いらっしゃい、ムロイ隊員。アマティ隊にようこそ。これからは、よろしくね」
差し出された右手を、戸惑いながらも握る“ムロイ”隊員。
その姿に笑みを返しながら、“ユウコ”隊員は、彼に同期入隊者を紹介してゆきます。
「今回4S隊から異動してきたムロイ隊員です。本日付けで、アマティ隊に異動して来られました」
「ムロイです。よろしく」
自己紹介する彼に、次々と隊員達が挨拶を返してきます。
「キリヤマです」 「タチヤマです」 そして、最後に紹介されたのが、“ジン”隊員。
「ジンです、ムロイさん、今後ともよろしく」
握り返してきた握手に、いきなり力を込め、“ムロイ”隊員を挑発する“ジン”隊員。
それを見ていた“ユウコ”隊員は、彼の挑発をやめさせるのでした。
「そこまでにして、ジン。私達は、忙しいの」

新隊員を加えたアマティ隊5名は、“ユウコ”隊員を暫定隊長として行動する旨の訓示を受け、活動を開始する事になったのです。
地球防衛軍は、地球基地の完成とともにサブリナス基地を衛星基地として格下げして、名実共に主力を地上に移す予定でいました。
為に、地球防衛任務のずべてをアマティ隊に移管し、科学特捜隊は、完全な下部組織として警察任務に業務を縮小する方向にすすんでいたのです。
これは、Purityの事件を踏まえ、遊撃部隊の2面作戦の指揮的な不合理を是正しようとした考え方でした。
完全な形での稼動の前に、防衛軍遊撃隊の整備を図ろうとした参謀本部は、アマティ隊に各方面からの有能な要員を異動させたのです。

新生アマティ隊の新型宇宙戦闘艇は、その秘密地下基地に配備されていました。
3つに分離可能な戦闘艇は、三角翼を呈しており、近代的な素晴らしい攻撃兵器でした。
「認識番号X-01か・・・」 「まさに試作戦闘艇だね」
口々に感想を述べる隊員達に“ユウコ”隊員は、任務について説明を始めるのでした。
「おしゃべりはそこまでに。我々アマティ隊は、地球防衛の遊撃隊として活動する為に、これら超兵器の完熟訓練を行なう」
銀色に光る戦闘艇を眩しく見つめる“ムロイ”隊員。
アマティ隊への異動には不満があった彼も、この機体を操る事ができる事にはワクワクしていたのです。
全員が搭乗して位置につくと、X-01は発進態勢に移行してゆきます。
≪第4格納庫開放、fourth Gate Open・・・Scramble situation Attention!・・・≫
山頂がスライドすると、電磁レールが輝き始め、蓄電を開始してゆきます。
≪X-01、Preparation completion. The start is permitted !!≫
管制官の許可で、電磁レールの開放が行なわれ、X-01が加速、発進してゆくのでした。

基地周辺空域で、合体、分離行動を中心に、X-01の完熟訓練を行なうアマティ隊。
「まだ、時間がかかりすぎる。迅速に動きなさい!」
“ユウコ”隊員の指示の元、訓練を繰り返すアマティ隊。
そこに防衛軍司令部から通信が入ります。
≪司令部よりアマティ隊へ。牙獣が地球上に現れました。4S隊が追撃中ですが、合流して、迎撃作戦に加わってください≫
突然の命令に動揺する各隊員たち。
「皆!聞いたわね。X-01の威力をみせつけるチャンスよ。気合をいれてゆくわよ!」
“ユウコ”隊員は、司令部に了解の通信を送ると、全速で牙獣を追いかけるのでした。

数分で現場に合流すると、SSS号を抜き去り、牙獣に急速に迫ってゆきます。
Σレーザー砲を機首より発射すると、狙いたがわず、牙獣にそれは命中します。
衝撃で軌道が変り、牙獣は、地表へ墜落したのでした。
しかし、牙獣は生きていました。
地上で猛威をふるう牙獣に、4S隊とアマティ隊は、協同で攻撃を仕掛けます。
「重粒子ミサイルを使用する。各員は、衝撃に備えよ」
“ジン”隊員の声を聞いた“ムロイ”隊員は、叫びます。
「ジン!まだ至近で、SSS号が攻撃中だ!攻撃は・・・」
「ムロイ!4S隊ならかわせるだろう・・・」
通信機から聞こえた声は、悪意に満ちた響きでした。
“ムロイ”隊員の要請にもかかわらず、ミサイルは発射され、牙獣に直撃を食らわします。
爆発する牙獣、その衝撃波から間一髪で離脱するSSS号。
安堵の表情の“ムロイ”隊員でしたが、攻撃した“ジン”隊員に不平がいっぱいでした。

撃滅した牙獣の後始末は4S隊に任せ、基地へと帰還するアマティ隊。
ブリーフィング後、“ジン”隊員と話をしようと進み出る“ムロイ”隊員でしたが、同僚の“キリヤマ”隊員に止められます。
「ムロイやめろ。ジンのとった行動は、問題ない。これ以上の批判は、君の経歴に傷がつく・・・」
“キリヤマ”の言に怒りを隠せない“ムロイ”隊員。
「それに君の仲間達、4S隊にも累が及びかねない・・・」
ここで問題を起こせば、皆に迷惑がかかると知った“ムロイ”隊員は、肩を落とし、座り込みます。
そんな彼を見ながら”キリヤマ“隊員は、自分の部屋に誘うのでした。

部屋でいきなりPC末端を開く“キリヤマ”隊員。
「これは・・・?」
映し出されたものは、ここ最近の牙獣の登場箇所と重粒子ミサイルの投射状況でした。
日付、時間、威力範囲・・・すべての状況が提示されており、その数値は、ある事実を“ムロイ”隊員に気づかせたのでした。
「ま・まさか・・・キリヤマ・・これは、もしかしたら?!」
彼の考えを肯定するように頷き返す“キリヤマ”隊員。
「君は一体、何者なんだ?」
ニヤリと笑って部屋の盗聴防止装置を作動させる“キリヤマ”隊員。
「私は、参謀本部直属の調査官さ。アラシ参謀とフジ監理官の命令で動いている」
彼の言葉に驚く“ムロイ”隊員。
「君も、私と同じ任務に就くために、ここに転属させられたのさ。そう、不穏な動きのあるアマティ隊の調査の為にだ・・・」
「!」
転属命令に上申しない隊長や監理官の意図に気づく“ムロイ”隊員。
情報管理に優れている彼を秘密調査員として潜入させたのは、“フジ”監理官だったのです。
“キリヤマ”隊員は、状況を把握した“ムロイ”隊員に、調査の内容を話し始めるのでした。
「さっきも見てくれたように、重粒子ミサイルと牙獣の確認状況が、あまりにも符合している・・・」
最近、牙獣は、突如として地球上で確認される事が多くなったのです。
以前は、宇宙防衛網を突破して地球上に降りてきていたのですが、現在は防衛網をすり抜けてしまっている状況だったのです。
「宇宙軍も監視体制を強化したのだが・・・」
「それも効果が無かったと?」 「そういうことだ・・・」
しかし参謀本部の一部には、別な見解を示す者がいました。
それが、“アラシ”参謀だったのです。
地球上で、何者かが牙獣を誘導しているのではないかと、秘密裏に調査を始めたのです。
ところが、調査が進むうちに奇妙な一致が確認されました。
牙獣出現後、アマティ隊の重粒子ミサイルで撃滅してから、必ず1〜2週間後に、そのエリアか隣のエリアに牙獣が再度出現するのでした。
繰り返されるこの状況に、ある疑いが生まれたのです。
重粒子ミサイルは、牙獣出現と何らかの関係があるのではないのかと・・。
このミサイルは、対牙獣兵器として、アマティ隊が開発し、参謀本部が管理する秘密兵器でした。
為に、細かな性能や整備工場についても極秘事項になっていたのです。
“アラシ”参謀は、アマティ隊の調査を開始します。
協力者として、“フジ”監理官にも要請を行い、秘密裏に防衛軍内部で何が起こっているのかを検証しようとしたのです。
そのために、彼らは送り込まれたのでした。
「それで・・・重粒子ミサイルの整備工場は?」
「ああ、この地下基地の最深部に作られている。この真下のエリアだ・・・」
驚く“ムロイ”隊員。
「次回の集合まで、5時間程度の自由時間が与えられている。その時間を利用して・・・」
「地下施設に潜入するんだな・・・」
「そう言うことだ」

急いで、準備に移り、地下ゲートへと移動する二人。
“アラシ”参謀が用意したパスカードで、順次警備システムを突破してゆく事ができていました。
最後の扉を通り抜ける二人。
「あまりにも簡単すぎないか?」 「ああ・・・」
警備も少なく、作為的な雰囲気を感じた二人は、警戒しつつ、工場区の管理センターに近づいてゆきます。
工場区内は、完全ロボット化していて、人間の存在は、彼らだけでした。
「こ、これは・・・」 「凄い・・・」
全自動で作られてゆく、重粒子ミサイル。各種のロボット達が、黙々とミサイルを製作する姿に驚きを隠せない“ムロイ”隊員。
その間に“キリヤマ”隊員は、管理センターのPCから重粒子ミサイルの情報を読み取ります。
そのデーターを手渡された“ムロイ”隊員は、彼の技術を生かして、プロテクトを解いてゆきます。
数分後、現れたデーターは、彼らに驚くべき事を知らせたのです。
「まさか・・・」 「ほ・本当に?」
データーは、重粒子ミサイルが、地球人の遺伝子と反応し、牙獣を生み出している事をあらわしていたのでした。
【第50話/完】




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