第9話






メセドメキアとの戦いは、地球人類の命運を掛けた戦いになる予感がありました。
最初の強襲をウルトラマンアルヴィスの活躍で逃れる事ができた地球でしたが、防衛軍はその兵力の無力さを知り、事態は非常に暗澹とした状態だったのです。
すぐに世界会議、防衛会議、が開催され、今後のメセドメキアとの攻防に備えるべく意見の交換を行ったのですが、有効な手立てがあるわけも無く、時間だけが過ぎていくのでした。

「ファ、良い?」
統合本部のファの居室を尋ねる“マミ”隊員。
無言で“マミ”を迎える“ファ”、その表情は厳しく冷たく感じます。

「ええと・・・ファ、疲れてない?」
会話のきっかけを掴もうとする“マミ”隊員に“ファ”は鋭く答えます。

「ここにそんな話をする為に来た訳ではないでしょう」
“ファ”の指摘に、“マミ”の気勢はそがれ、黙ってしまいます。

「マミ、貴方が此処に来た訳は、私自身とアルヴィスの事でしょう」

黙って頷く“マミ”隊員。

「貴方もアルヴィスの共生体だから薄々は感じているだろうけど、私とアルヴィスも共生体なの・・・いいえ、だったと言うべきかしら」
“ファ”は、“マミ”隊員を見つめながら話を続けます。

「私の母星は、貴方達と初めて会った星とは別な星なの。私の母星は“リュディア”」(注・ティシュトリヤ星系に位置する星)
「リュディアは、貴方達と似たような・・・いいえ科学力では地球より進んでいた処よ。平和な美しい星だったわ・・・あのメセドメキアが現れるまでは・・・」
机に手を掛けた“ファ”の手が握り締められます。

「リュディアでも、今の地球と同じ様に、驚きと恐怖に見舞われたわ。牙獣の攻撃は圧倒的だったし、それを防ぐ手段がなかったの」

「でもその時に彼は現れてくれたの」

“マミ”が言葉をつなぎます。
「アルヴィス・・・?」

“ファ”は頷くと、耳のイヤリングを触ります。
「そう。彼と私は共生体として、牙獣と、そしてメセドメキアと繰り返し戦ったの」(注・彼女の通し名はファ・ロギュテルでした。ロギュテルの本当の意味は、王族ではなく、戦う偉大なる王、賢者=アルヴィスのリュディア語だったのです)
「でもそれは、終わりのない戦いだった・・・倒しても倒しても、彼らはリュディアを攻撃してきたわ。その度にリュディアの人々は、恐怖と絶望に突き落とされ、遂には彼ら自身が、メセドメキアに取り込まれてしまうようになったの」

“ファ”の眼から流れる涙に“マミ”も感化されていきます。

「そう!私は同胞も敵として、葬らなければならなかったの!」
「でも、そんな私達を誰も信じてはくれなかった。その苦しみを理解してくれず、逆にメセドメキアの脅威から守れない事を非難する者までがいたの」

悔しそうに“ファ”は眼を閉じると、
「あの時、私は力が無い為にリュディアの人々を守れなかった。そして、アルヴィスを失ったわ!」
「其の後は、貴方達と出会うまでは、放浪の旅だった。でもメセドメキアの戦いの敗者は何処へ行っても迫害されたわ」

“マミ”を見つめる“ファ”の眼に憎しみにも似た表情が読み取れます。

「私は、貴方が憎いわ!貴方が持つあの力が、あの時の私にあれば、リュディアの人々を救う事ができたのに!!」
「そして、その力を自由に使えない貴方に怒りを感じるの!貴方の心の弱さは、メセドメキアに付け込まれる隙を与えるわ」
“ファ”は、ドアを指差し“マミ”に出て行くように促すのでした。

「ファ・・・」
“ファ”の悲しみは、“マミ”に大きな衝撃を与えたのでした。


自室に戻った“マミ”は、イヤリングの力を利用して、アルヴィスと接触します。
《アルヴィス・・・聞こえる?話しても良い?》
プリズムに似た光の中で“マミ”はアルヴィスと出会います・・・。

《アルヴィス・・・ファと何故別れてしまったの?何故リュディアの人々を救ってあげられなかったの?》
“マミ”の問いかけに、アルヴィスは静かに答えます。

【私は、君達の言う神という存在ではない。私は、君達の意志を取り込み、それを実行する力を、君達に貸してあげている存在に過ぎない】
アルヴィスは、“マミ”と出会った時を再現します。

【君は、絶体絶命の中で、自分の危険を顧みず、一緒にいた小さな生命を守ろうとした。そして、その願いが自力で叶わないと知った時、その小さな生命に対して、謝っていたね・・・】

“マミ”は、回想し、アルヴィスに頷きます。

【その時の君は、自分の力が足りなくて、その生命を守れない事に悔しさを感じていたと思う。でも最期まで、守ろうとして、その意志を変えようとはしなかった・・・】
【其の後の戦いでも、君は私の力を最期の時まで使用せず、自分でなく、他人を助ける為に力を使ってきた】

《そんな事はないわ。私が危険な時や自分が怒りに負けて貴方の力を使った事も・・・》
“マミ”のそんな反論にアルヴィスは、答えるのです。

【それでも、何かを守ろうとして行動した事なのだよ】
リュディアの戦いを思い出すように、アルヴィスは続けます。

【ファと私の関係は、今の君ととても似ていた。そして、同じ様に闘う者同士、心が通じ合っていた。しかし度重なる戦いは、彼女の心に怒りを生みつけ、その怒りは、彼女の心を閉ざしてしまったのだよ。心を閉ざした者と私は共存する事ができなかった。そして、リュディアの人々も、彼女と私を信頼できず、お互いが疑心暗鬼となり、メセドメキアの前に敗れ去ってしまった】

アルヴィスは、“マミ”に向かって語り続けます。
【マミは、ファの事を本当に心配しているんだね】
【マミ、私は君を信頼している。その心根の優しさと奥底に潜む信念の強さを。そして、互いを信頼し合う君たち地球人類を・・・。願う事ならこの信頼を崩さないでいて欲しい】

そう言い残すと、アルヴィスは“マミ”隊員の意識から消えていくのでした。

出来る事を精一杯頑張る、それが今の自分のしなければいけない事と心に誓う“マミ”でした。
【第9話/完】


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